順路に従って隣の建屋へ移ると、今度は「醪(もろみ)仕込み」の工程です。大きな仕込桶の上に人形が立っていますが、これもなかなかの危険を伴う仕事。ここでは2m以上ある大櫂(おおがい)でかき混ぜます。
醪の仕込みは、前の工程でできた酛(もと=酒母)に、冷やした蒸米と水と麹を加えながら、混ぜ合わせて発酵させます。この工程は、添・仲・留の三段階に分けて仕込む「三段仕込」が一般的。
簡単にいうと、段階を経ながら材料を加えては発酵させ、倍々ゲームのように増量していきます。
発酵を終え、仕上がった醪をこちらの酒袋に入れて搾ると、お酒ができあがります。その後に残った粕がいわゆる「酒粕」ですね。
これをずっと手作業でやってきたのもすごいですが、無駄なものや捨てるものがほとんど無いことにも改めて驚かされます。
話は前後しますが、先ほどの醪の入った酒袋は木製の「酒槽(さかぶね)」に並べられ、テコの原理と重石を使って上から圧力をかけて搾られます。この工程を「上槽(じょうそう)」といいます。
写真左下の口の部分から原酒が出てくるのですが、搾りたてのお酒は白く濁っているので、滓(おり)を沈殿させたり、加熱して殺菌や味の調整をして、秋まで貯蔵されます。
ここまでくると、もはや手間暇の塊。知れば知るほど、日本酒と蔵人へのリスペクトが増してきた気がします。
貯蔵して熟成された清酒は、吉野杉でつくられた四斗樽につめて出荷されました。写真は樽に藁菰(わらこも)を巻き、とじ縄をかけた「菰冠樽(こもかんむりだる)」とつくっているところ。これを本荷造りといいます。
こちらは灘五郷の銘酒を江戸へ運んだ「樽廻船」。ちゃんと「白鶴」の樽が積み込まれています。ちなみにこの模型船は神戸海洋博物館から借り受けているものなんだとか。
このフロアには酒づくりに使われる道具がたくさん展示されているのですが、それぞれに付けられた名前がユニークなので、そのあたりにも注目すると結構楽しめます。
写真は「ちゃぼちゃぼ」と「かんかん帽」。呼びやすさや覚えやすさを考えて付けられたそうで、ほかにも「うどん屋」や「猫」「馬」などいろいろありました。
酒瓶に貼られるラベルも歴代のものが展示されています。『白鶴』以外にもいろんな銘柄があり、中には戦時中の雰囲気が漂うものも。当時「赤道を越えても腐らない酒」と評判になった『陸軍』のラベルなんかもあります。
鐘酒器のコーナーにはお猪口や徳利、熱燗のための用具なども展示されていました。昔のものなので、今の時代にはない種類があっておもしろいです。
神戸ジャーナル 編集部
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