
港町・神戸。
寒い冬にふと恋しくなるのが、おでん。
カウンター越しに立ちのぼる湯気、ゆっくり流れる時間、肩ひじ張らずに楽しめる空気感も魅力だ。
今回は神戸で長く愛され続ける老舗の味や、新しい感性を取り入れた一椀を楽しめる、おでん屋さんを巡ってみた。
三宮のセンタープラザの地下へ続く階段を降りると、どこか懐かしい匂いが漂ってくる。
小さな暖簾をくぐった先で迎えてくれるのは、昭和2年からずっと変わらず守られてきた出汁の香り。
ここ「まめだ」には、約100年分の優しさが、鍋の中で今日もそっと湯気を上げている。

― 三宮神社から始まった長い歴史
「当店は昭和2年、1927年にできました。最初は三宮神社の境内で営業していて、当時は今よりも店も大きかったそうですが、市電が通るようになって、三宮のセンター街に移ってきたんです。」
そう話してくれるのは店主の大川さん。
現在の場所に移ってからでも約50年。周囲の店が移転を重ねても、「まめだ」は変わらない形のまま続いてきた。
「隣のお蕎麦屋さんも100年以上続いています。ここ、センタープラザは歴史の長いお店が多いですね。」

― 先代から“見て覚えた”味づくり
「実は、ほかのおでん屋さんに行ったことがないんです。先代はほとんど教えてくれなかったので、仕込みの時間や動きを見て、少しずつ覚えていきました。」
お店で働き始めたのは30代の頃。仕事をしながら店を手伝う日々のなかで、自然と味を引き継いでいったという。
「先代のこの味だけは守っていこうと思って、こだわってやっていますね。」
以前は常連が常連を呼ぶ形で続いてきた店だが、最近は若い人、とくに女性のひとり客が増えてきたそうだ。

― 約30種の具材。それぞれに丁寧な仕込み
「よく出るのは定番の大根、豆腐、こんにゃくです。いまは30種類ほどあって、はんぺんやぎんなん、つみれなどもあります。季節によって少し変わるけどね。」
こだわりのすじ肉は脂をほどよく残し、しつこさが出ないように下処理している。
「全部脂を抜いてしまうとうまみと風味がなくなるので、少し残すようにして一本一本、串に刺しています。」
おすすめのおでんは?を聞くと、「もちろん全部おすすめなんですけど、しいて言えば大根ですかね。」
と話す大川さん。控えめに笑う姿が印象的だ。

― “もち巾着発祥”と言われる理由
「当店がもち巾着の発祥と言われることがありますが、中にこんにゃくやごぼうを入れて煮ていた“宝袋”という商品がはじまり。常連さんから“もちを入れてみたらどうか”と提案があって、そこから生まれたそうです。」
竹の皮で結んでいるのは、煮込んでも切れないため。
「かんぴょうだと長く煮ているうちに切れてしまうんです。形がきれいに残るので竹の皮を使ってます。」
随所に仕事の丁寧さを感じる。

― 気軽に入ってほしい、8席だけのおでん屋
「うちは本当に普通のおでん屋なので、あまり深く考えずに気軽に来ていただけたら嬉しいです。予約は取っていませんので、ふらっと来てみて、席が空いていればぜひ入ってほしいかな。」
17時ごろなら比較的入りやすい日もあるという。
「長く滞在される方はあまり多くないので、おひとりでも大丈夫ですよ。お酒は菊正宗が中心で、ハイボールもあります。もちろんお酒を飲まなくても、遠慮せずお越しください。」
にこやかにそう話す大川さんの柔らかい表情が、この店の空気そのものだ。
飾り気のない湯気の向こうに、約100年の積み重ねがしっかりと息づいている。

まめだ
住所 神戸市中央区三宮町1丁目9−1-B1F
アクセス 各線「三ノ宮」「三宮」「神戸三宮」駅より徒歩約5分
営業時間 16:00~21:00 定休日 月曜日
Instagram https://www.instagram.com/odenmameda/
三宮北野坂近くに佇む「島おでん MIKE 神戸店」。
淡路島の食材をいかしたおでんは、新しい“島の味”を神戸で楽しませてくれる。
落ち着いた店内で、季節の一椀と向き合うひととき。

— 淡路島の“御食国”の味を神戸で。
「お店ができたのは2019年の3月です。開店からまだ数年ですが、淡路島の食材をどう活かすか、ずっと試行錯誤している毎日で楽しいです。」
笑顔で話してくれるのはOKAMIの氏家さん。
「淡路島は、古くは“御食国(みけつくに)”と呼ばれ、天皇に食材を献上していた土地なんです。その由来から“MIKE(みけ)”という店名になりました。」
淡路島の豊かさをそのまま神戸に届ける——そんな想いが込められたお店だ。

― “淡路島の食材”を堪能する
「よく注文されるのはコース料理です。淡路島の味を一通り楽しんでいただけるので、ご満足いただけることが多いですね。」
前菜から始まり、一品料理やおでんと、“淡路島の季節を丸ごと味わえる”構成にしている。
「単品で人気があるのが“島野菜の巾着”。白菜・オカワカメ・にらなど、季節の野菜を使っています。以前はモロヘイヤやオクラを入れていたこともありますよ。」
丁寧に仕立てた料理の安心感が、人を自然と呼び寄せるのだろう。
「食事はワインとのペアリングも大事にしていて、食材に合うように、ソムリエが自然派のワインを選んでいます。」

― もっとも苦労したのは“出汁づくり”
「一番大変だったのは出汁ですね。開店まで自分たちで一から作り続けて、完成するまで1年半かかりました。」
毎日少しずつ調整し、少しずつ積み重ねて、ようやく辿り着いた“島おでんの味”。
淡路島の薪釜炊きの「おのころ雫塩」と「淡路島の鱧」を使用し、ミネラルたっぷりな昆布と鰹の深いうま味を合わせた自慢の出汁は、店の核となる部分だ。

― 神戸で“淡路島の御食”を味わってほしい
「地産地消をテーマに、お客様には淡路島の食材を身近に感じていただきたいです。神戸にいながら御食国の味を楽しんでいただけるよう工夫しています。」
御食国・淡路島の食文化を、神戸という街で自然に体感できる場所。
それが「島おでん MIKE 神戸店」である。

島おでん MIKE 神戸店
住所 神戸市中央区加納町3丁目14-5 上山ビル1F
アクセス 各線「三ノ宮」「三宮」「神戸三宮」駅より徒歩約10分
営業時間 17:00~23:00(L.O.22:00) 【土日祝は昼営業もあり】12:00~15:00(L.O 14:00)
公式HP https://www.potomak.co.jp/shop/2461/
三宮から新開地までは、阪急・阪神・神戸高速線などを利用して電車で約10分。
かつて「東の浅草・西の新開地」と呼ばれるほど賑わっていた街の中心で95年間、暖簾を守り続けてきたのが「高田屋京店(たかたやきょうみせ)」だ。

— 新開地に息づく”おでんの物語”
「創業は昭和6年です。2025年の11月で95年目に入りましたね。祖父が酒蔵に勤めていて、独立の際に蔵元から“高田”という姓をいただき、自分の名“京蔵”の字と合わせて“高田屋京店”と名乗りました。」
立ちのぼる湯気の向こうから、女将の祐子さんが温かく語ってくれた。
「元々は神戸駅の東側周辺でお店があったのですが、35年前にこの新開地に移転してきました。20年前ぐらいから私がお店を手伝うようになったかな。」

― 揺るがない“げんこつ精神”
高田屋京店のおでんは「げんこつサイズ」の大きさとしても有名だ。
ジャガイモは丸ごと、豆腐は半丁、ロールキャベツは握りこぶし大。当時から今もその大きさは変わらない。
「全部の具材が美味しいけど、ロールキャベツと牛すじは鉄板で人気ですね。季節もので言ったら、たけのことか小芋とかも美味しいですよ。」
そう語る祐子さんは、食材の仕入れにも強いこだわりを持つ。
地元の商店街や精肉店から仕入れることで、店を通じて神戸のまち全体も盛り上げていきたいと話す。

― お客さんと一緒につくる“ごった煮の風景”
「昔から女性の方も入りやすいお店であるように心掛けていて、そこから女性のおひとり様が増えましたね。最近はSNSのおかげもあって若い方も来てくれるようになったり、もちろん昔からの常連さんやファミリーも多いですね。」
そして、ふと微笑んで言う。
「席の距離が近いのでお客様同士で自然と話が弾むことも多いんですよ。年齢層が幅広いので、うちは“ごった煮みたいなお店”なんです。その雰囲気が好きで来てくださる方もいます。」

― これからの“高田屋京店”
鍋から具材を上げる瞬間の湯気、店内のあたたかな笑い声、そしてスタッフたちの手際。
そのすべてが、この店だけの“景色”をつくっている。
「新開地の催し物も参加させてもらったり、NPOの活動にも参加したり、この土地で長く続けていくために何ができるかを考えてやってきましたね。今後、息子にお店を引き継いでもらっても、古き良きところと新しいところがある、いつでも活気のある高田屋京店になっていくんじゃないかなと感じています。」
帰り際、またこの活気に会いたくなる。そんな余韻が残るお店だ。

高田屋京店
住所 神戸市兵庫区湊町4-2-13
アクセス 阪神・阪急・神戸電鉄「新開地駅」より徒歩約3分
営業時間 11:00~21:30(L.O. 21:00) 定休日 日曜日・祝日
公式HP https://takataya-kyoumise.com/
店ごとに異なる、神戸おでんの物語
店ごとに味や雰囲気が異なる「神戸のおでん」。
一椀には、その店の歴史や店主の思い、積み重ねてきた工夫が静かに息づいている。
まち歩きの途中のひとときとしても、一日の締めくくりとしても好適である。
その時々の気分に寄り添う「神戸のおでん」を、ぜひ味わってみてほしい。

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