海と街を見下ろせる絶景神社が神戸にあると聞き、前編で保久良神社に登った様子を紹介しました。
神社から眺める神聖で美しい景色や、毎日山頂の神社を訪ね登る生活が「ふつう」になっているご婦人たちのことを思い浮かべていたら、「神戸のふつう」が気になったのです。
絶景神社についても調べてみると、もう一社、気になる場所も見つけました。
次はご来光を狙ってみたい。そのためにゲストハウスを予約し、滞在を延長。もう少し「神戸のふつう」を体験したいと思います。
夕飯は気の利いたお惣菜をテイクアウトすることにしました。
【文】 コヤナギユウ (デザイナー/エディター)
給食のオバサンから書籍出版社で営業職ののち、渋谷やNYの路上で絵を売るイラストレーターへ。現在はグラフィックデザイナーに転身し、旅や体験を楽しく情緒的に表現するライター業も行い、写真も撮る。カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務め、神社検定3級。
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巨大かぼちゃが転がっているが、これは「栗マロンかぼちゃ」ではない
阪急神戸線の御影駅から徒歩5分のところに、ブティックのようなたたずまいのお惣菜屋さん「Zucca FINE VEGETABLE & DELI(ズッカ ファインベジタブル アンド デリ)」があります。
ズッカはイタリア語でかぼちゃ。ここは、国産かぼちゃの最高峰「栗マロンかぼちゃ」の卸業者が、そのかぼちゃのおいしさを伝えるためのフラッグシップショップです。
お惣菜だけでなく、スイーツもある
おいしいかぼちゃとは、甘さ、旨味、そしてホクホク感があること。
これはデンプンの質と量が重要で、品質を上げるには手間暇がかかるため「栗マロンかぼちゃ」は「農家泣かせの品種」といわれてるそうです。
「栗マロンかぼちゃ」の旬は9月〜10月上旬。お店では上手に冷凍保存しているので、通年かぼちゃのお惣菜を楽しむことができます。
「いわゆる栗系かぼちゃの中で、栗マロンかぼちゃは自信を持っておいしいと提供できるブランド野菜です。 特に9月下旬には味の最高到達点に達します。
ただ、野菜の良さは食べてみなくちゃ分かりませんよね。
このおいしさを知ってもらうための場がないとリアリティがないと思って、2015年にこの店をオープンしました」(代表・佐藤一さん)
そう、食べてみなくちゃ分かりません。
じゅるりとよだれをこらえ、ちょっとずついろいろ味見してみたいわたしは、スープ付きの「Zucca DELI SET」を持ち帰ることにしました。
素材のおいしさを引き立てた上品なお弁当は彩りも豊か
Zucca FINE VEGETABLE & DELI
住所 神戸市東灘区御影郡家 1丁目23-13
電話番号 078-821-8831
営業時間 11:00~18:00
定休日 水曜日、木曜日
阪急電鉄神戸線の各駅停車で王子公園駅へ。線路沿いの高架下伝いに5分ほど歩くと、3階建ての「ゲストハウス萬家(まや)」があります。
診療所兼住居だった建物を、地域の方達(のべ300名!)と協力しDIYで改装しました。
オーナーは韓国出身の朴徹雄(パクチョルン)さんです。
ゲストハウスオーナーと聞くと、もともとバックパッカーなのかと尋ねると……
「いいえ、僕はあんまり旅には興味がありません。(笑)
大きな荷物といっしょに移動して過ごすゲストたちを日々見ていて、すごいなぁと思っています。僕は”交流”に興味があるんです」
朴さんが初めて日本に来たのは中学生のとき。
第2外国語の授業がドイツ語か日本語かで、消極的な理由で日本語を選択していました。
というのも、様々な偏見に触れていて、日本自体にはあまりいい印象がなかったといいます。
「日韓交流として大分県で4日間、ソウルで3日間ほど同年代の日本人と過ごしました。
言葉はカタコトですが、実際に交流することで友情を築き、日本を好きになったんです。
実際に会って、交流しなければ、分からないことがたくさんあると気がつきました」
客室は女性専用ドミトリーや個室もある
交流をすることで、ありのままを認める多様性の重要さに気がついたと話す朴さんが神戸に来たのは、結婚がきっかけです。
ただ、ここ王子公園に奥さんの実家があるなど、縁があったわけではないそうです。
「大学卒業後、日本で一般企業に就職していたのですが、やっぱり交流に興味があって、品川のゲストハウスで修行し、神戸でゲストハウスを開きたいと思ってやってきました。
理想的な場所を探しているときに見つけたのが水道筋商店街です。
あ、良かったらその水道筋商店街での〝つまみ食いツアー〟もやっているので行ってみませんか?」
つまみ食い! なんて魅力的な響き。
なんでも「ゲストハウス萬家」では、朴さんがナビゲーターになって商店街散策をしながら、試食もできるツアーを行っているとか。
参加してみるしかありません。インタビューもそこそこに水道筋商店街へ出発です。
アーケードの長さは450メートル。
大正時代に西宮市から神戸市内に水道管を引いた際にできた道で、今でも地下には水道管が走っています。商店街には地域に密着した賑わいがあります。
ドイツからのゲストと一緒に濃厚ごま豆乳で乾杯。左が朴さん
「この商店街は地域密着型なので、交流があると感じ、ここでゲストハウスを開きたいと思いました。
最初は、商店街の中に作りたくて、喫茶店でバイトをしながら物件探しをしたのですが、なかなか理想通りのものが見つからなくて……」
水道筋商店街は8つの商店街と4つの市場が東西に連なっている
つまみ食いにぴったりのフィンガーフードが嬉しい
物件探しは難航し、2年を要したといいます。
縁もゆかりもないなかったまちで奔走する朴さんを救ったのは、ここで築いた新しい縁でした。
「僕が物件を探していることを知って、地域の人から情報が集まってくるようになりました。
そのとき知り合ったのが、いまの宿の向かいにある家具屋さんで、ちょうど良さそうな空き家があると教えてもらったんです。
でも、もちろんすんなり借りられたわけじゃなくて、最初は断られて、何度もお願いしに行きました。
建物を取り壊してマンションを建てる計画もあったそうですが、大家さんの家族が暮らした思い出の建物を生かしてくれるなら、と貸してくれることになったんです」
この日、市場開場100周年に向けたカウントダウンイベント「灘中央市場100周年千日前祭」の一環として、好きな店で好きなだけ食材を買うことができる「紙皿食堂」が行われていた。コロナ禍もあり開催は2年ぶり
灘中央市場のマスコットになっている遊具は「戦争と平和」と呼ばれている
火災時の延焼を防ぐ防災空地を利用してマーケットが開かれていた
「内装は物件を見つけてくれた家具屋さんや、デザイナーさんと協力して考えました。
地域で愛された診療所なので、そのなごりもところどころに残しています。
でも、こんなにおしゃれなゲストハウスができあがるとは思ってなくて、本当に感謝しています」
ゲストハウスの看板もよく見ると、レントゲンを見るライト台だ
「ゲストハウス萬家の名前は、たくさんの人が集まる家になるようにと願ってつけました。
集まるというのは、ゲストもそうですし、ここを一緒に作った地域の人たちもそうです。
王子公園駅は有名な観光スポットじゃありません。だからこそ、ありのままの”神戸のふつう”が感じられます。
表面的な観光だけではなくて、地域の人たちとの交流がその場所をもっと好きになるきっかけになると思うんです。
だから僕たちも、ゲストが交流を持てるようさりげなく促しています。
そうして、よろず(萬/たくさん・すべての)の価値観が交流する場になって欲しいと思っています」
そういって笑う朴さんの笑顔は爽やかで、肩の力が抜けているようでした。
ムリして背伸びをしても、疲れてしまうし、疲れさせてしまうというもの。
暮らすように旅するコツのひとつは、ふだん通りに過ごしているまちで過ごすことにありそうです。
ゲストハウス萬家
住所 神戸市灘区城内通4丁目4-10
電話番号 090-9856-8280
受付時間 8:00~22:00
王子公園駅は確かに有名な観光スポットではありませんが、魅力的な商店街に加え、市民に親しまれている「神戸市立王子動物園」があり、JR灘駅や阪神本線岩屋駅も近くて、繁華街の三宮へはもちろん、灘五郷への酒蔵巡りなどにもアクセスがいいです。
旅という限られた時間の中で、効率よく観光スポットを回っていると、呼吸が浅くなって疲れてしまうことがありませんか。
「神戸のふつう」にふれて、「いつもの自分」を取り戻し、息がしやすくなりました。拠点は地に足の着いた暮らしを感じるまちがいいかもしれません。
でも、明日は絶景神社に行ってみようと思っています。
登山をともなう絶景神社は、着いたころにはくたくたになってしまうんですけど、秘策を企てているのです。
銭湯価格で楽しめる灘温泉の炭酸泉にシュワシュワとつかりながら、鋭気を養います。
明日は、絶景神社でご来光を狙います。
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