神戸出身の友だちが、上京してきて一番の違和感は「山が見えないこと」と言っていました。なんでも、いつも山が見えて、その反対側は海なので、自分がどの方角を向いているのか瞬時に分かるというのです。
自分が向いている方角を気に留めたことなんてなかったので、おかしなことで不安を感じるものだな、と思いました。
ただ、やっぱり神戸を知る上で、海はもちろん山も欠かせない要素です。
神戸の港を見下ろす景色は絶景で、思わず神々しさを感じずにはいられません。
そんな立地に神社があると聞いて、尋ねてみることにしました。
登山は苦手、と尻込みをする必要はありません。海と山が近い神戸なら、山頂の絶景神社だって、最寄り駅から徒歩30分のハイキングで登頂できるといいます。
わたしは、阪急神戸線の岡本駅に降り立ちました。
【文】 コヤナギユウ (デザイナー/エディター)
給食のオバサンから書籍出版社で営業職ののち、渋谷やNYの路上で絵を売るイラストレーターへ。現在はグラフィックデザイナーに転身し、旅や体験を楽しく情緒的に表現するライター業も行い、写真も撮る。カナダ観光局オーロラ王国ブロガー観光大使、チェコ親善アンバサダー2018を務め、神社検定3級。
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阪急電鉄神戸本線の岡本駅は近くに大学がいくつかあり、学生にも人気のおしゃれなまちです。
海側へ5分歩けばJR神戸線の摂津本山駅も利用でき、暮らすのに良さそう。でも、今日は山側へ向かって歩きます。大きな道しるべはないので、Googleマップとにらめっこしながら、住宅街を縫って保久良(ほくら)神社の参道を目指しました。
保久良神社の参道はハイキングコースの一部になっていますが、序盤は住宅街の雰囲気のまま。ただ、坂がかなり急勾配です。
ここに暮らしたら、自転車には乗れないなぁと思いつつ足を進めると、やがて山の気配になってきました。
はぁはぁと息を上げ歩いていると、後ろ手を組んで談笑しながら登る二人のご婦人の姿がありました。
なんでも、地域の方には「ほくらさん」として親しまれ、毎日登山している人も少なくないとか。
おかしいなぁ、わたしはこんなに息を切らしていて、とてもおしゃべりできる状態じゃありません。
ふと自分の足元に目を落とすとアスファルトの道をスラックスとスニーカーで歩いています。わたしだって街歩きの装いでまったく問題ないのです。
ああ、これは、山が身近な暮らしの人との基礎体力の差なのかもしれない、と思いました。
時間にして駅からおよそ30分。山らしい所を歩いたのは15分程度だと思います。
汗びっしょりになりながら「ヘアピンカーブは外側を歩くようにすると少しは楽」などのコツを身につけている間に、ゴールは突然、現れました。
……あれは、鳥居。つまり、保久良神社に、着いたのです! かいた汗の分だけ感動はひとしおです。
保久良神社は、鳥居向かって左におられる椎根津彦命(しいねつひこのみこと)がアオガメに乗って、多くの村里と日輪(太陽)が眺められる場所を探していたところ、この山を見つけ磐座祭祀されました。
神社名の由来はふたつ。ひとつは神霊を集めたところという意味。もう一つは村里への火種共有のため、社頭に「かがり火」を焚いていたことから「ほむら(炎)」がなまって「ほくら」となった説です。
この灯火は海上からもよく見え、古くから「灘の一つ灯(ひとつび)」と呼んで沖の舟人の道標になっていたそうです 。
この景色は「神戸らしい眺望景観10選」として01のナンバーがふられている
現在の石灯籠は1825年(文政8年)に設置されたオリジナル。阪神淡路大震災で斜面に落下してしまったものの、火袋以外は破損しなかったそう。灯火はなたね油からLED電球に変化しましたが、いまも常夜灯として灯り続けています。
保久良神社は須佐之男命、大国主命、大歳御祖命といった”国つ神”を祀っていますが、ここが神聖な場所である歴史はもっと古くからありそうです。
境内には「立岩(たていわ)」といわれる大きな岩が点在しており、社務所裏にある「神生岩(かみなりいわ)」から大きな円上に巨石が配置されており、紀元前2百年前から古代人が祈願していたのではといわれています。
社務所裏にひっそりとたたずむ神生岩(かみなりいわ)
わたしが訪れたのは10月中旬ですが、紅葉や新緑の季節もきっと美しいでしょう。4月初旬頃には社殿前のしだれ桜が美しいといいます。
神社の方に春の写真をお借りしました Photo by 保久良神社
神社の裏手には梅林があります。岡本は梅の名所として知られ、一時は宅地化で伐採され梅林消失の危機に貧していましたが、いまはその姿を取り戻そうとしてるそうです。
梅の見頃は2月中旬から3月中旬頃。次はその頃、再訪してみたいと思いました。
保久良神社
住所 神戸市東灘区本山町北畑680
電話番号 078-411-5135
下山して岡本駅に戻り、駅前の白い壁が印象的なお菓子屋さんを訪ねました。チョコレートサンドで有名な「Louis Blanc(ルイスブラン)」です。
もともと地元の人気店ですが、2019年のNHK紅白歌合戦でアイドルグループの嵐が楽屋見舞いとして選んだことから、ファンを通じて全国に知られました。
以来、1日に800〜1000個を売り上げ、週に1度入荷の通信販売分は5分で売り切れ、店頭販売では整理券配布が基本となったそうです。
「通常のチョコサンドですと、正方形や長方形が多いのですが、この細長いラウンド型だと割れやすく、またムダも出やすいですが、スタイリッシュなチョコサンドクッキーをつくるために、こだわっているところです」(代表・藤本知久さん)
デザイン重視とのことですが、ボリュームのあるチョコレートサンドも、この形なら女性でも食べやすいです。軽い力で歯を立てると、クッキーとチョコレート部分が一緒にほろりとほどけます。
平日やオープン時などに合わせれば、すぐに買えることも。わたしもすんなり購入することができました。保久良神社を訪れるために早起きした甲斐があったというものです。
代表の藤本知久さんからもどこかジャニーズの雰囲気を感じる
Louis Blanc(ルイスブラン)
住所 神戸市東灘区岡本1-11-18 甲南ライフ
電話番号 078−778−2016
営業時間 ︎10:30~19:00(整理券配布は10:00〜、商品完売次第終了)
定休日 ︎木曜日、日曜日
公式サイト https://louisblanc-shop.com/
30分程度のハイキングとはいえ、身体にいいことしたし、せっかくなら、ランチも身体にいいものを食べたいもの。そこで見つけたのがカフェ「Yuddy(ヨディ)」です。
店内は香港映画「欲望の翼」をイメージしたモダンな内装で、店名も映画の主人公の名前から。
おしゃれな雰囲気も惹かれますが、ここを選んだのは中国茶や和スイーツ、薬膳など、メニューにこだわりを感じるから。ここなら、身体によさそうな食事に期待ができそうです。
選んだのは人気の「週替わり Yuddyのベジスープご膳」。
この日は、メインが鶏ごぼうハンバーグに、じゃがいもとマッシュルームのポタージュ。旬の野菜が使われています。
ガラスの器に入っているのは日替わりの中国茶。
この日は龍井茶(ろんじんちゃ)という中国緑茶です。ひとくちほおばるごとに疲労が少しずつ和らぐようでした。
Yuddy(ヨディ)
住所 神戸市東灘区岡本1-4-3 坂井ビル3F
電話番号 078-411-7228
営業時間 ︎9:00~20:00(朝メニュー9:00~10:30/通常メニュー:10:30~20:00)
定休日 ︎なし
公式サイト https://cafeyuddy.com/
岡本のまちを歩いていると、自分がここに暮らしているイメージがとても沸いてきます。
電車が複数駅利用でき、ローカルのお店もあれば、よく知っているチェーン店もあります。
気の利いたお菓子を手土産に、おしゃれなカフェで友だちと近況報告をしている自分がすぐ隣にいそうです。
ふと、神戸出身の友だちの話を思い出しました。
”上京してきて一番の違和感は「山が見えないこと」”
初めて聞いたときは、ピンと来ませんでしたが、いまなら、その感覚が分かりそうな気がしてきました。
だったら、あともう少し、ここで暮らすように旅してみようと思います。
わたしは「神戸のふつう」に出会えるゲストハウスを予約しました。
絶景神社を求める旅は、もう少し続きます。
神戸公式観光サイト Feel KOBE
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岡本駅すぐそばで生まれてから18年暮らしていたので、写真見ただけで懐かしくて泣きそうになりました。小学校では、年に2回登山会があり、おにぎり一個だけ持って学年ごとにホクラサンに登っていました。
友人がこの近くに住んでいたので時々散歩がてら神社まで足を伸ばしていました。梅の季節はホントに素敵ですよね。足は疲れますが(^_^;)