兵庫の食のコンシェルジュ・鵜殿麻里絵さんがご案内 神戸で楽しむ地産の恵みとご当地名物  Feel KOBE

 神戸といえば、観光とともに、おいしいものが盛りだくさんの食の街でもあります。神戸ビーフやスイーツなど、ガイドブックでもよく見かけるグルメが思い浮かぶかもしれませんが、神戸の食の土台になっているのが、多種多様な地域性を持つ兵庫県の豊かな恵み。広い視点で眺めると、さらに奥深い楽しみ方が見えてきます。

 そこで今回は、神戸の老舗料亭の女将にして、神戸・兵庫の“食のコンシェルジュ”として活躍する鵜殿麻里絵さんに、個性豊かな地元の食の魅力をご案内いただきました。

【Profile】鵜殿麻里絵
1917(大正6)年創業の老舗料亭「松迺家(まつのや)」4代目女将(創業者の曾孫)・(株)エムズブランディング代表取締役。大学卒業後、企画・広報の仕事を経て、弱冠24歳で家業を継承。近年は、「ひょうご観光大使」、「野菜の伝道師」、「五つ星ひょうご」選定委員など兵庫県のPR活動にも多数携わり、2019年から「兵庫県おみあげ発掘屋」の運営を手掛け、県の観光・物産の発信拠点を担う。

洗練された料亭のもてなしとともに、四季折々の地産の恵みを満喫

直系女性4代にわたる老舗で、料亭ならではの「おもてなし」の系譜を継ぐ鵜殿さん

 ある時は着物姿の料亭の女将、またある時は地場産品の魅力を伝えるエキスパート。異なる“食”のフィールドで、“二刀流”の活躍を見せる鵜殿さんは、生粋の神戸っ子。かつて神戸随一の花街・花隈で、数々の各界著名人も迎えた老舗料亭「松迺家」創業者の曾孫にあたります。

 「4代目として家業を継いだのは、阪神淡路大震災の後。全壊した屋敷の光景を目にして、料亭として松廼家を復活させたい、料亭で過ごすなかで学んだことを次世代に伝え残したい、という思いは心のどこかに持ち続けていました」。

貿易商・大林保吉の住宅として1907年に完成、後に海運業者の乾家が所有した邸宅。
神戸市の伝統的建造物に指定されている。

 震災後、長らく三ノ宮駅前のビル内での営業が続いた松廼家が、北野に移転したのは2020年12月。新天地は、JR西日本が所有する、かつてのゲストハウスとして利用されていた、市の伝統的建造物・旧乾邸。築100年を超える大きなお屋敷ですが、「私にとっては、昔のお店に似ていて、初めて見た時には懐かしさを感じました」と鵜殿さん。

 瀟洒な洋館が点在する異人館通から石段を上ると現れる、風格ある数寄屋造の空間はまさに別世界。神戸随一の老舗料亭の“復活”は、地元でも大きな話題を呼びました。

1階は写真の「藤の間」と「桜の間」の2つの和室があり、四季の庭の風情も楽しめる。

昼御膳は、南北に窓が開けた2階の大広間「桜の間」(左)で提供。
貴重な写真を展示する一室もあり、老舗の歴史に思いを馳せるのも一興。

 創業以来の端正な仕事が息づく正統派会席はそのままに、「今までとは違う一面を打ち出したい」という新生・松廼家の意気を体現するのが、移転を機に新たに創案した昼限定の御膳。家紋入りのモダンなお重に、料亭の醍醐味をギュッと凝縮した特別な一品です。

月替りの昼御膳2750円(写真は3月)から。一の重(右)は、紫キャベツで染めたライスペーパーを氷に見立てた、瀬戸内産蛸のやわらか煮 薄氷仕立て。二の重には、兵庫県産新わかめの酢の物、大和芋・三度豆・紅生姜・海老の湯葉巻、牛頬肉柔らか煮。

淡路産玉ねぎペーストのまろやかなコクと香ばしい甘みが染み入る茶碗蒸し。
しらす炊込みご飯は白味噌仕立てのだしを注いで。

 兵庫県の「野菜の伝道師」も務める鵜殿さんだけに、食材には兵庫の恵みを感じられる地産の旬味をふんだんに。二段重を開くと、透き通る紫が見目鮮やかな瀬戸内のタコの柔らか煮や、走りの新わかめの土佐ジュレ仕立て、色とりどりの野菜が映える湯葉巻など、長年培った和食の伝統に新味を加えた皿が充実。

 月替りで地元の旬の味覚を用いる茶碗蒸しや混ぜご飯まで、他のコースにはない、このためだけの一品揃いです。「料亭の味を気軽に体験してもらえたら」との思いも込めた破格の御膳を、趣ある広間で味わえるのは望外の贅沢です。

 一方で、「料亭の歴史や味と共に、神戸や兵庫県、さらに広く日本の文化を知っていただける場にできれば」と、JR西日本との共通する思いから文化事業にも力を入れる鵜殿さん。国指定重要無形民俗文化財でもある淡路人形浄瑠璃や和太鼓、日本舞踊、新開地の寄席「喜楽館」とコラボした落語会など、料亭文化と縁が深い歌舞音曲に関わるイベントも定期的に開催しています。洗練されたもてなしと清新な華やぎに満ちたここは、まさに山手の奥座敷。四季を感じる料理の数々に、神戸・兵庫の“食”の懐の深さを実感できます。

(左)およそ500年の歴史をもつ淡路人形浄瑠璃は、淡路人形座より人形遣い・吉田史興氏を招いて開催。
(右)和太鼓では、国内外で活躍する和太鼓奏者、木村優一氏が登場

Information

松廼家
住所:神戸市中央区北野町4-2-5 JR西日本三宮ゲストハウス内
電話番号:078-862-6077
営業時間:11:00~15:00、17:00~22:00
定休日:月曜

兵庫五国のご当地名物から、個性豊かな“おみあげ”を発見

新神戸駅直結の総合商業施設「コトノハコ神戸」に2019年7月にオープン。
市街・観光地へのアクセスが良く、旅行の際に利用しやすい。

 鵜殿さんのもう一つの顔が、全国に兵庫ブランドを広めるアンバサダー。観光大使やツーリズムアドバイザーを務めると共に、自らプロデュースした「兵庫県おみあげ発掘屋」は、地元の魅力の新たな発信拠点として注目の存在です。

 実は鵜殿さん、家業を継いだ当初は、女将の傍らフードライターとしても活動。地元の味や歴史ある老舗を残したいと、数多くの店を訪ねて取材した経験が今につながっています。「当時から家業だけでなく地元に貢献したいという思いがあって、様々な活動に携わるなかで、兵庫県の特産品が一堂に集まり、多くの方に知ってもらえる場所ができればと考えていました」。開店にあたり県内各地に足を運んで開拓を進め、コンセプトに多くの賛同を得て実現したのが「兵庫県おみあげ発掘屋」です。

神戸スイーツに淡路の玉ねぎ、香住のカニや出石のそば、龍野の醤油、丹波の黒豆など、兵庫五国から個性豊かな産品が集結!

日本酒コーナーには県内各地の蔵元の銘酒、希少な銘柄がずらり。

 摂津・播磨・淡路・但馬・丹波の旧五国を擁する兵庫県。全国に知られる神戸の食も、個性あふれる五国の豊かな恵みがあればこそ。県内各地からセレクトした400種類以上のアイテムが揃う店内を巡れば、兵庫県の広さを実感できます。

 目移りするほど多彩な品ぞろえの中には、地元の人でも知らなかったというものも多いとか。神戸ビーフや日本酒、全国有数の消費量を誇る紅茶やスイーツといった、一見、誰もが知る名物にも、市内・県内にしかない限定品が少なくありません。

神戸っ子が愛する調味料や惣菜など地元の味も充実。

摂津=神戸・阪神間はスイーツ、紅茶を中心に、パッケージデザインも華やか。
老舗「大井肉店」のハンバーグなどオリジナルアイテムも注目。

 一方で、神戸っ子に愛されるバラエティ豊かな地ソースや餃子の味噌ダレ、播州の和菓子文化から生まれた郷土菓子など、地元の人々に親しまれる普段使いの味も。さらに、食だけに止まらず、兵庫西部の伝統綿織物・播州織のストールや日本六古窯の一つ丹波焼の食器、地元作家によるオリジナル刺繡のポーチなど、カジュアルな生活雑貨が女性客に好評。定番の名産品から地元ユースまで、まさに掘り出し物が満載です。

播州織のストールは、豊富な色彩や肌触りのよさが特徴。

fito[フィト]の手刺繍ICカードポーチは、神戸をモチーフにしたおしゃれな図案が人気。

 「広い兵庫県には数えきれないほどの特産・名産がありますが、その中から自信をもっておすすめできるものが揃っています」という鵜殿さん。中でも注目は、普段は現地でしか手に入らないご当地名物の予約・限定販売。その大きな目玉が、いまや世界的な人気を誇る三田市のパティスリー「エス コヤマ」のリザーブシステム。

  小山ロールや小山流バウムクーヘンなど人気の10商品が、完全予約制でオーダー可能。三田本店以外で受け取れるのは唯一ここだけ。連日、行列ができる「エス コヤマ」の商品が待たずに買えるこのシステム、スイーツ好きには見逃せません。

注目の「エスコヤマ リザーブド」は、火曜午前までに予約し、金曜に店頭で受け取るシステム。

 さらに、限定販売では知る人ぞ知るご当地名物が登場。素材の滋味がぎゅっと詰まった、多可郡「マイスター工房八千代」の天船巻き寿司をはじめ、西脇市のカフェ「レ・ボ・プロヴァンス」の旬の果実ぎっしりのフルーツサンド、上郡町「コネル」、丹波市「よしだ屋」のパンなど曜日限定の逸品は、いずれも売切御免の人気ぶり。毎週水曜には地場産の野菜も並んで賑わいを増す店内は、「道の駅と百貨店の良いとこどりのイメージ」とは言いえて妙です。

第3金曜限定販売の「マイスター工房八千代」の天船巻き寿司は、地元兵庫の素材のみを使用。
太めに切ったキュウリに肉厚の干しシイタケ、香ばしい玉子焼、三位一体のバランスが絶妙。

 とはいえ、ここは単なる物産品店にあらず。実は、もう一つの役割があります。「本来、お土産は現地に行って買って帰るものですが、ここでは各地の方に代って魅力的なお土産を紹介し、お客様とつなげていくというのがコンセプト。神戸は兵庫県の観光の玄関口でもあるので、逆にここに並ぶものを通して、土地柄を知り、人を知り、実際にその地を訪れるきっかけになれば嬉しいですね。どこでもすぐに情報が手に入る時代だからこそ、ここにしかない“地元らしさ”を残していくことが、大きな魅力になると思っています」。

毎週水曜は店頭に産直野菜が並ぶ。

  「おみやげ」の語源は「よく見て、よく調べて、人に差し上げるもの」を意味する「見上げ」が転じたものといわれています。店名をあえて「おみあげ」としたのは、「確かな品を大切な方に、じっくり選んでほしい」という思から。

  県内各地の名産を丁寧に掘り起こし、その土地や作り手の思いも乗せた食の醍醐味が集まるここは、神戸を訪れる人と兵庫県各地をつなぐ出会いの場。宝探し気分で発見した素敵な“おみあげ”が、また新しい旅のスタートになるかもしれません。

ロゴデザインは、日本を代表するデザイナー・佐藤卓氏。
兵庫の伝統、技術、味を掘り起こし、発信する店のコンセプトを体現している。

Information

兵庫県おみあげ発掘屋
住所:神戸市中央区北野町1-1 コトノハコ神戸
電話番号:078-891-4888
営業時間:10:30〜19:00
定休日:無休
※営業時間、定休日は変更の場合あり

【文】田中慶一
神戸の編集プロダクションを経て、フリーランスの編集・文筆・校正業。関西の食を中心に情報誌などの企画・編集を手掛ける。また、学生時代からのコーヒー好きが高じて、01年から珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』を独自に発行するなど専門分野を開拓。全国各地で訪れた店は約1000軒超。2013年より、神戸市の街歩きツアー「おとな旅・神戸」でも案内人を務め、2017年には、『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)の制作を全面担当。

神戸公式観光サイト Feel KOBE
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