神戸には、1,000m以下のハイキング登山で、電車やバスなどのアクセスも良い六甲山系の山々が多く点在しています。
しかも、登山道には茶屋や展望台、休憩所が点在しており、絶景とおいしい食事を気軽に楽しめて、低山縦走もできる、初心者にもベテラン問わず登山者にはうれしい『天国』のような場所となっています。
「近代登山発祥の地」とも言われるこの神戸で、初心者から登山上級者、トレイルランナーまでもが楽しめる「須磨アルプス」の縦走をご紹介します。
「須磨アルプス」とは、六甲山系の西端、横尾山から東山にかけて見られる荒々しい風化花崗岩の岩稜帯のことです。
そのうち「馬の背」と呼ばれる名勝地では、森林がなく、岩だらけの稜線が続きます。東側には大阪湾、西側には神戸、大阪の街並みが一望でき、気軽に『アルプス』のような絶景を楽しむことができます。
今回は、山陽電車、須磨浦公園駅をスタートに板宿駅をゴールとし、鉢伏山から旗振山、鉄拐山(てっかいざん)、栂尾山(とがのおやま)、横尾山を抜けて、馬の背、東山までの縦走コースを歩きます。
ということで、まずやってきたのは須磨浦公園駅です。
駅を降りた瞬間から、このレジャー感たっぷりな駅と看板にわくわくします。駅を出ると、すぐ右側にはロープウェイ。10時から営業しており、鉢伏山上駅、その先の須磨浦山上遊園へとつながっています。
私は自分の足で向かいました。この日は祝日とあって、小雨ながらも続々と登山の格好に身を包んだ人たちがやってきます。私もその中に混じって歩き始めます。
30分~40分程度でロープウェイの鉢伏山上駅にたどり着きます。早速出迎えてくれたのは、瀬戸内海の美しい景色と神戸の街を見下ろせる絶景です。
「この須磨の景色が大好きなんだよ」と同じタイミングで登ってきた人たちがうれしそうに話しているのが聞こえてきます。
さらにロープウェイの駅を過ぎると、登山道らしくなってきます。
しばらく歩いていくと、旗振(はたふり)茶屋が見えてきました。
旗振りというのは、この場所で旗を振って合図をしていたことが名前の由来だとか。現在は、茶屋を運営している人たちが行ってきたというネパールのカラフルな旗が茶屋の前を彩っています。
登山者にはうれしい行動食なども置いてあり、行く前に買うのを忘れていた…というときにも心強い。須磨浦公園駅周辺にはコンビニはないので、とてもありがたいです。ただし、営業日は土日祝日のみなので、ご注意ください。
旗振茶屋
住所 神戸市垂水区下畑町
アクセス 須磨浦公園駅から歩いて約40分
電話番号 078-733-2534
定休日 平日(土日祝日のみ営業)
旗振茶屋を抜けて旗振山の山頂を抜けると、鉄拐山の山頂へ着きます。
そしてその先へ10分ほど進むと、「おらが茶屋」があります。
大きな3階建てのコンクリートの建物1階がトイレ、2階が茶屋、3階が展望台となっています。
須磨浦山上公園駅側から縦走する人にとってはここが最後のトイレなので、多くの人がここを利用します。
2階に進むと、店内からは神戸の街と海が一望できます。晴れているときには大阪の街や淡路島もくっきり見えてくるそうで、店内には双眼鏡を使って景色を眺める人も多く見られます。
双眼鏡の横に山の名前などが書かれたイラストが置かれています。店主の中田則久さんが描いたそう。淡い色合いの優しいタッチで一つ一つ丁寧に描かれているイラストに、地元愛を感じます。
中田さんは2021年10月にこの茶屋をオープンしました。
先代のおらが茶屋を経営していた人が撤退してからは、「展望台に通じる階段には苔が生え、ゴミ箱があふれていることも多く、廃墟と化していく様子に地元の人間として見るに堪えられなくなってきた」と言います。
中田さんは山のふもとの高倉台に30年ほど住んでおり、以前から別の経営者のお店の手伝いもしてきたことから、おらが茶屋の変貌を目の当たりにして「地元の人間としてなんとかしたいと思った」ことが、こうしてお店を運営するきっかけとなりました。
中田さん
前の経営者が撤退し、神戸市がおらが茶屋の運営者を公募した際に、中田さんは応募しました。
山の上ということもあって、雨の日には人の出入りが少ない日があるものの「お店は楽しい」と満面の笑顔で話します。
「ここを目的に来てくれる人もおるし、甘いものが好きと言いながら毎日のように来てくれる人とか、みなさん、このお店を応援してくれているなと感じるんですよ」。
モーニングを目当てに朝、ここに登って来る人も多く、店内では初対面の人同士も気兼ねなく話しをしていて、山上のサロンのようにもなっています。
「モーニング」
神戸という土地柄なんでしょうか。同じ場所に居合わせた人同士が、初対面であっても気兼ねなくいろいろ話しています。
なんと、ケーキはすべて手作り。
おらが茶屋で提供している3種のケーキ。左からチーズケーキ、チョコレートケーキ、ショートケーキ
色形がとても美しく、機械で製造されたようにも見えてしまうのですが、まぎれもなく中田さんの手作り。その場に居合わせたお客さんたちも「本当ですか?」と目を丸くするほどです。
「最近始めた」というショートケーキは、生地の中にも挟まれたイチゴの酸味とクリームの甘さが心地よく癒してくれます。
それもそのはず。前職は菓子製造業に勤めており、入社時に製菓衛生士の資格を取っていることから、ケーキ作りはお手のもの。
長らく仕事としてケーキ作りはやっていなかったそうですが、ちゃんとお店の味です。その場に居合わせたお客さんたちも「本当ですか?」と目を丸くしていました。
おすすめは「おらが茶屋セット」。
「おらが茶屋セット」
カレーはほどよい辛さで、あっという間に完食しました。食べた後には久々の登山でちょっと疲れを感じていた身体がびっくりするほど回復してきて、スイスイ進みます。
おらが茶屋
住所 神戸市須磨区高倉台
アクセス 山陽電車「須磨浦公園駅」から徒歩45分程度、「須磨浦公園駅」からロープウェイ「鉢伏山上駅」、観光リフトで「須磨浦山上遊園」で下車し、徒歩30分程度、または神戸市バス「高倉台」下車し、徒歩15分
電話番号 080-3837-9402(おらが茶屋 中田さん)
定休日 平日(土日祝日に営業)
茶屋を出てすぐ先に階段があり、降りていくと、歩道橋が出てきて、住宅地へとつながっていきます。
登山をしながらまさかの生活通路にも遭遇。地元の人たちと登山者が混じって歩いている姿はどこか不思議な感じもしましたが、街と山がとても近い神戸ならではです。
住宅地にはスーパーやお惣菜屋さんもあり、これまた便利。登山中に買い物ができるなんて、これはすごいですね。
さらに先に進むと、今度は上りの階段。400段もあるということで、息切れしてきます。時々踊り場が出てくるので、そこで下山者とすれ違いに使います。待っていてくれている下山者が「かまへん。ゆっくり行き」と優しく声をかけてくれました。
ここは栂尾山。山頂からは明石海峡がよく見えるはずですが、あいにくこの日は曇りで見えませんでした。しかし、ここでもまた海と街の絶景が続きます。
西側の街、東側の海と街の絶景が一度だけでなく、二度三度と目に飛び込んでくるたび、登山の疲れがあっという間に吹き飛びます。
なんとまぁ、うれしい登山なのでしょうか。
そして待っていました。横尾山を抜けたその先に見えるのが須磨『アルプス』の名前の由来ともなった「馬の背」です。
まさかの300m級の登山でこの絶景が見られるなんて、神戸の登山、すごすぎます。
こういう景色って、普通であれば1000m以上の高山で森林限界を抜けて、やっと見られる景色なんですよ。それがこの200~300mの山を縦走して、しかもお茶屋さんで一服までして見られるなんて、贅沢すぎます。
神戸は、前述したように「近代登山発祥の地」とも言われています。
開港してから居留地に住んでいた西欧の人たちが、六甲山系の山々に登って山を開いていき、この150年ほどの間にこんなにも気軽に楽しめる登山の文化の基礎ができていったようです。
今回の縦走路で通った山だけでも「おらが山登山会」「旗振山登山会」など登山会が4つもあったり、小中学生向けの登山教室など神戸の人たちは子どもからお年寄りまで登山に親しんでいます。
この日も毎日登っているというベテランや今日登山が初めてという人、親子連れや中学生のトレーニング、年配の方と老若男女さまざまな方が来ていました。初めて見る人にはもちろん、ベテランの方々にとっては何度登っても飽きない魅力がここにはあるのです。
海と街の絶景が何度も楽しめるのは展望台が随所にあり、休めるベンチも多数あります。最初から最後まで飽きず、息切れせず、気楽に楽しめる登山でした。
東山の休憩ポイントの右側に「板宿」と書かれた看板に向かって進みます。
ここから板宿駅までは30~40分ほど。もう、ゴールは近くまで来ています。
下山してしばらく行くと、板宿八幡宮がありました。
こちらでお参りして、住宅地を抜けた先に「板宿商店街」があります。
板宿商店街は、山陽電車と神戸市営地下鉄西上・山手線の「板宿駅」につながる200mほどの長さで、衣料品店や仏具店、ドラッグストアなどさまざまなお店が並んでいます。
板宿商店街の中にある創業70年を超える老舗「明月庵本舗」では、須磨の名前が付いた銘菓のお土産が並んでいます。
年季の入った木の看板がぬくもりを感じます。
どの和菓子もすべて手作りだそうで、その日に作った新鮮な和菓子がショーケースに並んでいます。
登山の楽しみは下山後の食事にもありますよね。葛あいすとの相性は最高です。
つるんとした食感とシンプルな甘みと水分が疲れた体を癒してくれます。
あんパンは、カップ麺と並んで登山の定番となっている人も多いと思いますが、店内で販売されている「あんぱん饅頭」も山の上でぜひ食べたい和菓子です。
板宿駅から出発の場合は、登山前に寄って買うこともできます。
25年以上、和菓子を作っている職人の佐野幸一さんにお話をうかがってみました。
毎日一つ一つ和菓子を手作りしているため、兄で3代目の幸弘さんとともに早朝から晩まで厨房に立ち、とにかく手が離せない忙しさだそう。
3代目の幸弘さん。どら焼きも1枚1枚手焼きしています。
こだわりは「その日に作ったお菓子をお出しすること」。店内には、予約分のお客さんの商品もずらりと並べられており、手間のかかった確かな味わいが地元の人たちにとても愛されていることがわかります。
板宿菓匠明月庵本舗
住所 神戸市須磨区飛松町2丁目4-4板宿本通り商店街
アクセス 山陽電車・神戸市営地下鉄西上・山手線「板宿駅」から徒歩2分
電話番号 078-732-0667
定休日 不定休
公式サイト(SNS) https://meigetsuan.co.jp/index.html
明月庵本舗を出ると、すぐ目の前に駅の出入り口が見えてきます。地元の人にも旅行者にもうれしいアクセスのよさです。
今回の縦走路では、それぞれの山から下山してバス停につながるエスケープルートもあり、疲れたときや用事があるときなど途中のコース変更にも便利です。
馬の背では時々、遭難してヘリで運ばれる人もいるらしく、登山には注意が必要です。地図や食料、水分は必須。天候は必ずチェックし、雨具を持参して急な雨にも備えてください。初心者は経験者と登って、体調には十分気を付けましょう。
初心者もベテランも子どもも大人も受け入れてくれる懐の広い須磨アルプス。ぜひ、登って神戸の絶景とおいしい食事を味わってみてください。
【取材・文】梅澤杏祐実
京都市生まれ、福井市出身のライター。福井の新聞記者、遺跡発掘調査などの埋蔵文化財の仕事を経てフリーに。福井県小浜市から京都・出町柳までの鯖街道76kmを2回踏破するほど歩くことと登山が大好き。企業・経営者の取材やインタビュー、グルメの記事などを手掛ける。関西好きが高じて、現在福井と京都の二拠点生活。
神戸公式観光サイト Feel KOBE
神戸の観光スポットやイベント情報、コラム記事など「神戸旅がもっと楽しくなるコンテンツ」を発信しています。
須磨浦公園からスタートしてまずは半縦走が目標、毎週栂尾山か高取山まで歩くように頑張ってます。
約20000歩強歩きます。
朝なるべく早く出発するので、お昼頃には下山します。
1週間に一度の楽しみです。
心地よい疲れと今日も歩けたと言う達成感、これで十分かな!
無理せず半縦走はしなくてもいいかな?
昔は六甲全山縦走11時間弱で歩けたのは夢なのか?
“みっちゃん”
掲載日と実際に行かれた日が、随分と差があるような。。
お出かけされた日付までは不要ですが、せめて、季節や月程度を書かれた方が、もう少し丁寧かなと感じました。