神戸市西区にオープンした「C-farm cafe」 プロ野球選手から転身した若手農家の挑戦  Feel KOBE

2022年11月1日、神戸市西区平野町に、有機野菜をふんだんに使用したカフェレストラン「C-farm cafe」がオープンしました。

神戸産にこだわったランチプレートなど、体に優しい地元のものを使った料理を届けています(メニュー内容の変更や時期によって仕入れ先が変更される場合もあります)。

この辺りで50席を有する広々とした飲食店が珍しいこともあり、オープン前から注目の的となっていました。

グランドオープン1週目から200人以上の方が訪れ、田園風景を眺めながらゆっくり食事ができることで早くも人気店となっています。

カフェの運営をしているC-farmを立ち上げたのは、28歳の若手農家・クリスさん。2019年にプロ野球選手を引退してから、農家へと転身したと言います。なぜ彼が神戸で農業を始めることになったのか、この場所でお店をオープンすることを決めたのか、詳しくお話を伺いました。

株式会社C-farm代表 / 稲垣将幸(クリス)さん
大学卒業後、四国の独立リーグに所属しプロ野球選手になるという幼い頃からの夢を叶える。独立リーグ在籍時にお米農家さんの元へ訪れたことをきっかけに農業に興味を持ち、20年間続けてきた野球を引退後、2020年から有機農業の研修をスタート。C-farmとして独立し、2022年11月神戸の有機野菜を使ったカフェレストランをオープンさせた。

C-farm cafeは、食を通して農業に触れられる場所

───クリスさんは、なぜC-farm cafeをこの場所でオープンさせたのでしょうか?

この場所にオープンしたのは、畑の隣でお店を開きたいという思いがあったからです。C-farmが大切にしているのは、「食・体・住」を通して農業に触れてもらうこと。

畑に囲まれている場所で、農業体験もできるカフェレストランを作りたいと思っていました。C-farm cafeでは「食」を入り口に美味しい有機野菜や神戸産の食材、農業に興味を持ってもらえたらと思い、体に優しいだけでなく、なるべくこの場所と繋がりの深い食材にこだわってメニューを考えています。

───農業体験もできるのですか?

はい。既に地域の子どもたちや、ご家族にも体験していただきました。まだ僕自身の畑が準備段階で、いつでもお客さまに体験していただけるように整えるには少し時間がかかるのですが、どなたでも農業に触れられる環境にしたいと思っています。

食卓に並ぶまでに、食材がどのように育てられているのか。

農業の楽しさや、農家の仕事をリアルに感じられる機会は、現代社会においてとても少ない思います。子どもたちの自然離れも、進んでいると言われています。

もっと体を使って自然と触れ合うことや、野菜を育てて美味しいご飯を食べることの楽しさを、伝えていきたいんです。

それは、この豊かな町に根を張って事業を展開していくことを決めた、僕たちにできることだと思うので。

地元の食材にこだわった、体に優しい料理

───月替わりのランチプレートは、神戸産の食材で揃えているんですよね。

そうです!ランチメニューは3種類あって、「月替わり KOBEランチプレート」は神戸産の食材を揃えています。

月替わり KOBEランチプレート(ごはん・スープ・ドリンク付) 1,780円

「ベーグルハンバーガー」は、西区で人気ベーカリー・dannapanさんに特別に焼いていただいていて、100%国産小麦と自家製酵母を使ったベーグルです。

ベーグルハンバーガー(ポテト・ドリンク付) 1,380円

「季節野菜のあいがけスパイスカレー」も、使っている野菜は地元で採れたもの。数十種類のスパイスを独自にブレンドした、2種類のカレーをあいがけしています。

季節野菜のあいがけスパイスカレー(サラダ・ドリンク付) 1,680円

dannapanさんのベーグルを使わせていただいているように、地元のお店ともっとコラボをして、ここでマルシェを開いたり、ハブ施設として活用していきたいんです。

広さは十分にあると思うので、この町で何かを開催したい時にはイベントスペースとしても協力できると思いますし。

───SNSでの発信を拝見していて、オープン前の農作業や内装工事も地域の人たちがたくさん関わっているように感じていました。

そうですね。農作業は神戸の大学生たちに声をかけて手伝ってもらったり、内装工事やテーブル制作なども地域の方や知り合いの皆さんにとても助けられて完成しました。

市が主催している「神戸農村スタートアップ」という農村地域(北区・西区)での起業や、事業づくりに特化した創業支援プログラムがあるんです。

僕はそこの3期生で、スタッフの中にも同期がいます。家具を作ってくれたのも2期生ですし、このプログラムで出会った人たちにも、とても助けてもらいました。

アスリート時代に、心を癒してくれた農業

───クリスさんは、もともとプロ野球選手だったと伺いました。全く別の世界だと思うのですが、なぜ農業に興味を持たれたのでしょうか?

プロ野球選手として四国の独立リーグにいた時に、地域貢献活動の一環で香川県のお米農家にお手伝いをしに行ったんです。それがすごく、想像以上に楽しかったんですよね。

裸足で田んぼに入って稲を植えたり、立派に育って黄金の絨毯のように稲穂の美しい景色が広がっているのを目の当たりにしたりして。僕にとってはすごく……ストレスフリーで穏やかな時間だったんです。

───日々プレッシャーの中勝ち続けなくてはいけない、アスリートの生活とのギャップも農業を好きになる要因だったのでしょうか?

それもあると思います。僕、実はドラフト最下位で入団していて、1年目で結果を出せなかったら2年目でクビの可能性もあるって言われていたんです。

ギリギリでプロになれた状態なのに、1年目に怪我をしてしまって……。「これはやばいぞ」と常に思いながら過ごす日々でした。

幸い、2年目では本塁打王、ベストナインなど良い成績を残すことができたんですが、次年度はその成績を「越えて当たり前」とされるので、好成績を残した分だけ来年の自分が追い込まれることにもなります。

退化や停滞が許されない、そういうプレッシャーの中にずっといたからこそ自然の中に身を置き続ける農業に惹かれた部分はあると思います。

農業も「自然との戦い」と言われますし、天候によって丹精を込めて育てていたものが収穫できなかったり、一筋縄ではいかないことも多いですが、それらもひっくるめてやりがいがあって、何より楽しいと感じました。

20年間打ち込んできた野球を引退し、 1年間「やりたいこと」を探してたどり着いた答え

───野球を引退したら農業を始めようとは、現役時代から考えていたのですか?

いえ、そこまで具体的にビジョンを持っていたわけではなくて「いつかしたいなぁ」というくらいでした。なので引退してからは、どこかの企業に就職をしようと思っていたんです。

引退と共に四国を離れて実家に戻ったら、意外にも父親が「企業に勤める道じゃなくて、自分で事業を考えて、自分のやりたいことを見つけた方がいい」と言ってくれて。

父はずっとサラリーマンとして家庭を支えていたので、僕の「転職を考えている」という言葉に何か思うところがあったんだと思います。

───なるほど、お父さまのアドバイスがあったのですね。具体的にやりたいことは他にも何かあったんですか?

当時は具体的に思いつかなかったので、とにかく色々やってみようと思って1年間でたくさんの仕事を経験しました。

バーテンとして接客業に触れてみたり、ホテルに勤めたり、体の知識を活かしてインストラクターをしたり、現場仕事に挑戦したり。

少しでも興味を持ったものには首を突っ込んで、色々してみた結果、やっぱり香川で体験していた農業が一番楽しかったなぁと思って。「農業をしよう」という心が決まりました。

農業に携わってくれる若者を、増やしていくために

───C-farmは、これからどんな未来を描いていきたいと考えていますか?

そうですね、やっぱり一番は農業に興味を持ってくれる人を増やしていきたいです。

兵庫県の農業者の平均年齢は約70歳で、農業者人口の減少や後継者不足の問題に直面しています。若手農家が必要とされていて、県や市町村も課題解決のために様々な施策を打ってはいますが、まだまだ事例が少ないのが現状。

神戸市も2021年に「神戸ネクストファーマー制度」というのが創設されて、働きながらでも勉強が両立できる短時間の農業研修を受けることで、小規模な農地を借りることができるようになりました。

専業じゃなくても、「何かをしながら農業」がしやすい環境に変化していくことはすごく大切だと思っています。

とはいえ、農業は関係人口がすごく重要な職種です。副業として農業をするにも、農地を紹介する人や、農業のはじめ方をそばで教えてくれる人が必要ですよね。

もちろん僕が教えられることはどんどん共有していきたいと思っていますが、「はじめる人」と「教える人」の両方が増えていくようにするための企画や施策を考えていかないとな、と思っています。

C-farm cafeも、農業をきっかけに人が集まる場所にしていきたい。ここに興味を持ってくれる人が増えるということは、農業に興味を持ってくれる人が増えるということだと思うので。

当時の僕のように、農業に何の接点もなかった人たちにも届くようにC-farmを大きくしていきたいと思っています。

Information

C-farm cafe
住所 兵庫県神戸市西区平野町印路26-1
電話番号 078-995-8859
営業時間 ︎11:00-17:00(L.O16:30)
定休日 ︎不定休
公式サイト https://c-farm.jp/
Instagram https://www.instagram.com/cfarm.jp/

アスリートから、農家へ転身したクリスさん。右も左も分からないところからC-farm Cafeをオープンさせるまでに、3〜4年を要したと言います。

農業と飲食店の開業を同時にスタートさせるのはとても大変で、なかには否定的な意見もあったそうですが「必ずやり遂げる」と心に決めて、黙々と挑み続けてきました。

オープン後はお客さまの声を聞きながら、日々改良を重ねているそうです。

地元のお店とのタイアップも色々計画中とのこと。C-farmの影響力は、どんどん大きくなっていきそうです!

神戸を訪れた際には、豊かな自然のなかで美味しい神戸のごはんを食べてみてください。

【文】ほしゆき
ウェブメディア『TABI LABO』の編集部に所属した後、2018年に独立してフリーライターへ。人やモノ・コトの背景にあるストーリーが好きで、インタビューを中心に企画・執筆を行っている。コピーライターとしてアパレルブランドのコンセプト制作、SHE likesでライティングの講師を務めるなど、幅広く活動中。
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  • りり

    2年前、脳梗塞で左側がダメですけど、料理をつくるのが好きで、それが楽しみで頑張ってます、食べに行きたいです

    2023年1月3日11:46 PM 返信する