待機児童とは、保育が必要な状態にもかかわらず保育所に入れない子どものことを言います。
今は共働きの家庭が増えたこともあり、少子化とはいえ「子どもを保育所に預けたい!」と希望する親が年々増加してます。
そのような需要に対して保育所の供給が追いつかず、保育所に入りたいのに入れない待機児童の存在が全国的な問題になっているのです。
では神戸市をはじめとする他の市町で、この待機児童問題はどのような状況にあるんでしょうか?神戸市・明石市・西宮市を比較していきます。
Index
・「待機児童ゼロ」ってほんま?「隠れ待機児童」って何?
・神戸市
・明石市
・西宮市
・どの市が子育てしやすいん?
「待機児童ゼロ」ってほんま?「隠れ待機児童」って何?
待機児童の問題を解決するため、国は保育のための施設を新設・整備したり、保育士の人材確保に取り組んだりと様々な対策を打ち出してきました。
厚生労働省によると、2022年4月時点の待機児童は、調査を開始した1995年以来で最少となる2944人。直近のピークだった2017年4月の2万6081人に比べると、約9分の1の数です。
また待機児童ゼロを達成した自治体は全国のうち85.5%とも発表され、これらの数字だけを見ると「まだ完全ではないけど、待機児童問題の解決も近いのでは…?」と思わされます。
しかしながら、ここで気にしておきたいのが隠れ待機児童と呼ばれる子どもの存在。
隠れ待機児童とは、希望した保育所などに入れないにもかかわらず、国や自治体での待機児童のカウントに入っていない児童を指す言葉です。
どのような原因で隠れ待機児童が発生するのか、具体例を挙げて考えてみましょう。
(1)特定の保育所を希望している
・家 or 会社の近くにある保育所に子どもを通わせないと、会社の就業時間に間に合わない
・送迎などのことを考えると、きょうだいで同じ保育所に通わせたい
こういった理由から一つ or ごく限られた数の保育所のみに入園希望を出したけれど、審査に落ちてしまう場合があります。
そのときに「家から自転車で30分の保育所/一人目の子が通っているのと逆方向の保育所なら、定員に空きがあるので入れるよ!」と役所から言われても、入園を決めるのは難しいんじゃないでしょうか。
日々の仕事や生活をことを考えると無理があるので、入園しない(できない)という選択をせざるをえないわけですが、こういった場合は行政から親の都合で保育所に入れていないと判断され、待機児童のカウントから外れてしまいます。
(2)親が育児休業を延長している/求職活動を休止している
親が育児休業を延長したり、求職活動を休止したりする理由はいろいろありますが、そのなかには「子どもを預けることができなかったので、やむを得ず…」というケースも考えられます。
必要書類を自治体に提出し、復職の意向があることや求職活動を行っていたことを証明できれば「待機児童」として正式に認められますが、それが難しい場合は「待機児童」のカウントから外れてしまいます。
主にこういった理由から生まれる隠れ待機児童は、2022年4月時点で7万人超。待機児童数として発表された2944人の24倍にも上ります。
ちなみに待機児童の定義は自治体によって異なるため、待機児童ゼロとしている自治体も、別の自治体の基準に合わせると待機児童が発生していることがあるそう。
この後は、神戸市・明石市・西宮市それぞれが公表している待機児童数&隠れ待機児童数を見ていくことにしましょう。
神戸市
神戸市によると、2022年4月時点の市内の待機児童は0人でした。
一方で隠れ待機児童※としては978人と、1,000人近い数字。
※以下のような人が含まれます。
・他に利用可能な施設等があるにもかかわらず、特定の施設等を希望される方
・4月1日に育児休業を取得されており、保育所等へ入所できた際に復職する意思が確認できない方
・求職活動を休止されている方
グラフを見ると、2011年(平成23年)からの11年間で、神戸市の待機児童数は減少傾向にあるようです。
さらに保育所などの利用定員が増加し続けていることも分かります。
神戸市は近年、市有地などを活用した教育・保育施設や保育送迎ステーションの整備などに取り組んでいて、2021年度には約600人分の受入枠を新たに確保したんだそう。
保育送迎ステーションとは、利便性の高い駅周辺に子ども(3~5歳)を預かるステーションを整備し、保育所まで専用バスで送迎する事業で、自宅から遠い保育所などを利用することが可能になります。
ステーションに併設している小規模保育施設では、0~2歳の子どもの受け入れを行っていて、施設の卒園後はステーション(3~5歳)に優先的に入所することもできるみたいです。
現在は市内7カ所に設置されていて、2023年4月には灘区の摩耶エリアに「だいなステーション(仮称)」も新設される予定とのこと。
明石市
明石市の公式サイト上に、2022年4月時点の待機児童数は掲載されていません。
そこで厚生労働省による資料を確認したところ、待機児童は100人で、隠れ待機児童の数は公表されていないようでした。
この待機児童の人数について、明石市の泉 房穂 市長は「数字だけをゼロにするのではなく、しっかりと本当の数字を公にしていく」という方針。
この際、待機児童問題にも、ひとこと。
— 明石市長 泉 房穂(いずみ ふさほ) (@izumi_akashi) January 22, 2022
国の待機児童ゼロの方針を受けて、マスコミは、
「潜在待機児童」を入れずに報道するので、
全国ワーストは西宮市で、その次は明石市。
「潜在待機児童」を含む実態は、
西宮市は全国11位で、明石市は34位。
潜在といっても、実際は困っているはずですが••• pic.twitter.com/fRjFyyrogp
泉市長は2021年4月時点の待機児童数について、公表されている数字だけを見れば明石市が全国で2番目に多いことを認めたうえで、潜在待機児童(=隠れ待機児童)を含めた数ならば全国34位になるとも述べています。
ついでに、こちらのツイートに添付された画像だけを見るなら、2021年4月時点における神戸市の隠れ待機児童を含む待機児童数は全国10位と上位だったようですね…。西宮市は11位です。
2018年、明石市の待機児童数は全国1位(571人)でした。子育て世帯の増加によって保育施設が足りなくなったことが一因のようです。
明石市では2016~2021年の6年間で、受入枠を5,908人拡大。約2.3倍の拡充です。
待機児童の数は年々減少し、今では人口増が始まった当初に近い水準まで減ってきています。
2023年4月時点の申し込み児童数としては過去最多の9,345人が見込まれていて、市は受入枠を新たに300人増やす予定なんだそう。
西宮市
西宮市によると、2022年4月時点の市内の待機児童は52人でした。
隠れ待機児童※は932人で、神戸市と同じく1,000人近い数字です。
※以下のような人が含まれます。
・育児休業中の方
・求職活動を休止されている方
・企業主導型保育事業に入所されている方
・特定の保育所等のみを申込されている方など
2022年4月時点で、西宮市の待機児童数は全国8位。その1年前には全国1位という結果でした。
市の担当者が神戸新聞の取材に語ったところによると「西宮市は文教住宅都市として発展し、元々は保育所より幼稚園志向の高い街だった」とのこと。
しかし近年は共働き家庭の増加とともに保育需要の高まりが続き、保育所を利用する若い子育て世代が増えたことが、待機児童を増加させているようです。
他の市と同様に、西宮市も保育所の開設をはじめとした受入枠の拡大に取り組んでいて、待機児童数は減少してきています。
ただし、保育所の利用を希望する人の割合は今後も増加し続けることが予想されるため、市は「今後は不足する1、2歳児の受入枠拡大に向けて、より重点的に取組みを進め、待機児童の早期解消に努めて」いくそうです。
どの市が子育てしやすいん?
3つの市の待機児童数と隠れ待機児童数をまとめると、こんな感じ。
それぞれの市が待機児童の問題を解消するため、主に受入枠の拡大を急ピッチで進めてます。
厚生労働省は、2021年4月からの1年間で利用定員数が100人以上増加した地方自治体を119個挙げ、増加人数のランキングも発表してます。
そのランキングで明石市は16位(502人)、西宮市は17位(480人)、神戸市は19位(473人)と、いずれも上位にランクイン。
このように増加人数と順位のみを並べると3市に大きな違いがあるようには見えませんが、ここで気にしておきたいのが「利用定員数における、1年間の定員増加人数の割合」です。
つまり「各市が1年間で増やした定員の人数は、全体の定員数のなかでどれくらいの大きさだったのか?」ということ。1年間における受入枠の拡大率と言い換えることもできるかもしれません。
計算してみると、神戸市は1.57%、西宮市は5.54%、明石市は5.58%でした。西宮市と明石市はどちらも5.5%台。神戸市は他の市を約4%下回る結果です。
受入枠を拡大することだけが待機児童問題を解決する手段というわけではありませんが、少なくともこれらの数字だけを見ると、明石市と西宮市は神戸市よりも急ピッチで対策を進めているように思えてしまいます。
実際、2021年4月からの1年間で待機児童が減少した市区町村(241個)のうち、西宮市は1位(130人減)、明石市は14位(49人減)となってます。神戸市は11人から0人への変化なので、11人減の100位です。
ちなみに待機児童数が30人以上の市区町村(20個)における待機児童率(申込者数における待機児童数の割合)の順位は、明石市が11位(1.14%)、西宮市が19位(0.55%)。
神戸市の待機児童は0人なのでランキングの対象外ですが、隠れ待機児童のこともありますし、待機児童数だけを扱うこういったランキングは参考程度に捉えて各市の取り組みを追っていく必要がありそうですね。
たとえば明石市では、認可外保育所に預ける保護者※に対して保育料の補助を行っています。
※「認可外保育施設等を月64時間以上利用する、第2子以降の児童の保護者」に対し、月額2万円を上限に保育料を補助(国の幼児教育・保育無償化制度に該当する児童は対象外)。
この補助があることで「近所に認可外保育所があるけど、保育料の負担が大きくて通わせられない…」という家庭を少しでも減らせるかもしれません。
神戸市・西宮市では、認可外保育所に預ける場合でも特に補助は受けられません。
神戸市の項目で紹介した保育送迎ステーションも待機児童問題に対する取り組みの一つ。
現在、神戸市では7つのステーションを設置してますが、西宮市には1つしかないようです。
明石市は過去に設置していましたが、2022年3月に廃止。理由は「保育施設の整備が進んで待機児童が大幅に減ったから」とのことで、現在その跡地には新たな保育所がオープンしてます。
神戸市のように保育送迎ステーションが多く用意されている街を「子育てしやすい!」と捉えることもできますし、明石市がステーションを廃止した理由を聞いて「保育送迎ステーションが必要ない街こそ、子育てしやすいのでは?」と考えることもできそうです。
「待機児童問題」への取り組みをはじめ、神戸市や周辺都市の子育て支援がどのように進んでいくのか、今後も注目していきましょう。
◆関連リンク
・保育所等利用待機児童数(令和4年4月1日時点) – 神戸市
・待機児童数一覧表 – 明石市
・保育所等待機児童数について – 西宮市
・保育所等関連状況取りまとめ(令和4年4月1日)及び「新子育て安心プラン」集計結果を公表 – 厚生労働省
この記事自体を否定するつもりはありませんが、この手の話は人口規模を考えずに話する傾向にあり、西宮、明石と神戸はそもそも3倍程度の人口差があって、それを考えると、本当に妥当な比較なのかが気になりました。
また、「隠れ待機児童」の中には育休延長のため保留通知が必要で、人気の園のみを書く場合もあります。
その方は真の意味(入りたくても入れない)で困っている待機児童ではないケースが多いのではとも思います。