100年の歴史を感じる 神戸の”ソウルドリンク”  Feel KOBE

ライター:かな

150年以上前に開港し、炭酸泉や鉱泉という資源にも恵まれ、サイダーやソーダの歴史とつながりの深い街・神戸。レトロ感のある街並みにハイカラな飲み物の組み合わせは絵になります。

今回は神戸のご当地ドリンクとして、“神戸のソウルドリンク”と呼ばれる定番アイテムから、歴史ある茶屋で始まった限定ドリンクまで数種類をピックアップ。購入できるスポットや一緒に楽しみたいおすすめフードも合わせてご紹介します。

また「炭酸飲料愛好会」を設立し、その魅力を発信している方から、地元の人もあまり知らないような歴史やエピソードをうかがいましたので、ぜひご覧ください。

100年以上前のサイダーを復刻《ありまサイダー てっぽう水》

まず一つ目は、日本のサイダー発祥の地とされる有馬温泉より「ありまサイダー てっぽう水」を紹介します。

「ありまサイダー」の特徴は、強めの炭酸と優しい甘み。 “てっぽう水”の名にふさわしく、口に含んだ瞬間にシュワッと感が広がります。

こちらは日本最初のサイダーともいわれる「有馬サイダー」を地元の合資会社・有馬八助商店が2001年に復活させたもの。その一員である吉田佳展さんに、有馬温泉の炭酸泉と炭酸飲料の歴史についてうかがいました。

有馬八助商店の一員であり土産物屋・吉高屋の吉田佳展さん。右は昔の「有馬サイダー」瓶

昔から「毒水」と呼ばれ避けられていた、泡を含む湧き水。しかし明治初期に調べてみたところ、実は良質の炭酸水であることが確認されました。

そして、明治34年(1901年)に有馬鉱泉による炭酸水瓶詰工場が設立され、ガス入りミネラルウォーターの販売が始まります。

その後の明治41年、炭酸水に甘味料や香料を加えた『有馬サイダー』が誕生します。ちなみにラベルにある大砲は、炭酸により瓶の蓋がポンッと飛ぶ様子が鉄砲のようだったことからデザインされたとか。

それから長い年月を経て、有馬サイダーが復刻したのは2001年のこと。

阪神・淡路大震災から数年後に、“有馬温泉を盛り上げていこう”と旅館や飲食店などに携わる8人が「有馬八助商店」を起こし、「ありまサイダー てっぽう水」を企画したのです。

詳しいレシピが残っていない中、「有馬は炭酸が強い」という古い書物の記述にこだわったり、ラベルは吉田さんが古い資料を掘り起こし、大砲の絵やレトロ文字も当時の雰囲気に近づけたそうです。

「ありまサイダー」は、吉高屋をはじめ有馬温泉の土産物店で購入可能

地サイダーブームの火付け役ともいわれ、今ではすっかり有馬温泉名物として定着しています。

この「ありまサイダー」と一緒に楽しみたいのは、同じく有馬名物の「炭酸せんべい」。 有馬温泉で「銀泉」と呼ばれる二酸化炭素冷鉱泉が、この炭酸せんべいにも使われているのです。

この日は、有馬八助商店のメンバーでもある「平野屋本舗」の炭酸せんべいと一緒に有馬温泉街で味わいました。 ほのかな甘みの炭酸せんべいと、シュワシュワの「ありまサイダー」。 湯上がりにゆったり飲むのも、お土産にするのもおすすめです。

Information

ありまサイダー てっぽう水
〈購入したお店〉吉高屋
住所 神戸市北区有馬町259
アクセス 神戸電鉄「有馬温泉」駅から徒歩約1分

神戸のソウルドリンク・みかん味の《アップル》

続いては70年以上前から販売され、“神戸のソウルドリンク”として愛される「アップル」です。

左がアップル、右がアップルサイダー。見た目の違いは王冠

「ラベルの貼っていない瓶で、名前は「アップル」、でも中身は「みかん水」。

当然ながらりんごジュースと間違われる方もいて、そのエピソードすら面白い、とても不思議な飲み物です。

長田区や兵庫区を中心に、銭湯やお好み焼き店、駄菓子屋などでの取り扱いが多く、今回は新長田駅近くで提供するお店にうかがいました。

1945年創業の老舗銭湯「萬歳湯(マンザイユ)」。こちらでは「アップル」と「アップルサイダー」を提供されています。

ほどよい甘さとすっきりした後味で長年愛されるアップルですが、炭酸入りを熱望する声も多く、2023年に発売されたのが「アップルサイダー」(王冠は緑色)。爽快感が増して、お風呂上りにピッタリ!人気がジワジワ出ているようです。

お客様の顔を見やすい円形の番台に座る店主・綿貫功一さん

地域のつながりが生まれる銭湯で、地元ならではのドリンクを楽しむ。神戸では当たり前の風景が、実は全国的には少ないらしく、時代を越えて長く続いていけばと感じます。

Information

アップル/アップルサイダー
〈購入したお店〉銭湯「萬歳湯」

住所 神戸市長田区腕塚町4-1-2
アクセス 地下鉄海岸線「駒ケ林」駅および各線「新長田」駅から徒歩約5分

そして、「萬歳湯」の向かいにあるお好み焼き屋「青森」へ。 そばめし発祥の店としても有名な人気店です。

こちらでは、長田の地元ソースを使ったそばめしやお好み焼きの少しスパイシーなソースに、甘酸っぱさのあるアップルが好相性。

そしてアップルとラムネを合わせた「長田カクテル」なるものも自分で作ることができます。 「混ぜたらよろしやん!」の声で始まったそうですが、ラムネの甘味がほど良く加わって美味しい。アップルサイダーよりも優しい味わいで飲みやすさもありました。

思わずメロンソーダも注文。すじ焼のソースの香ばしさとメロンの清涼感がよく合いました。

Information

アップル&ラムネ「長田カクテル」
〈購入したお店〉お好み焼 青森
住所 神戸市長田区久保町4-8-6
アクセス 地下鉄海岸線「駒ケ林」駅および各線「新長田」駅から徒歩約5分

兵庫鉱泉所・秋田健次代表

「アップル」など神戸で親しまれているドリンクを数多く製造する、長田区の「兵庫鉱泉所」。 こちらでは、代表の秋田さんがお店への納品と、利用後の瓶回収までされています。

SDGsといった言葉すら無かった時代から続けるリターナブル瓶。 「売って終わりにはしない」これは、環境面も安全面も考慮して変わらぬポリシーです。

市外・県外から「アップルを送って欲しい」との要望も寄せられる中で、すっとアップルが長田区・兵庫区中心なのは、こうした理由がありました。

110年以上のロングセラー《ダイヤモンドレモン》

3つ目は、大正3年(1914年)発売の「ダイヤモンドレモン」です。

人工甘味料は使わず、砂糖を使用していて後味すっきり。天然のレモン香料を加えた、シンプルなサイダーです。

発売当時から製法、レシピはほとんど変えていないとか。

製造の布引礦泉所は、明治32年(1899年)に神戸で創業。布引山麓に湧出する天然鉱泉を原料に炭酸水製造を開始したという、長い歴史を持つ炭酸飲料メーカーです。

元々は現在の新神戸駅付近に社屋がありましたが、阪神大水害の影響で西宮に移転されたそうです。

こちらを二宮にある「一三酒店 マルアール」にて購入。レモンの風味がほのかに甘く、でも爽やかで、昔懐かしさのあるサイダーでした。

Information

ダイヤモンドレモン
〈購入したお店〉一三酒店 マルアール
住所 神戸市中央区琴ノ緒町3-5-7
アクセス 各線「三宮」駅から徒歩約10分

タンサンを神戸の観光資源に「炭酸飲料愛好会」

明治時代に広まった炭酸飲料を中心に、神戸の地元ドリンクに関する情報収集や発信を行っている愛好会があります。 「炭酸飲料愛好会」の設立者・志方 功一さんにお話をうかがいました。

この会は、マニアックな視点から、神戸の歴史と深いつながりのある炭酸飲料を知ってもらう「愛好会」として、2023年に設立しました。

「アップルサイダー」の開発に携わったり、神戸の銭湯に地元ドリンクを置いてもらうよう働きかけたり、各地で広報活動を続けています。

そして2025年夏に始めたのが、歴史ある茶屋でのラムネ販売です。

明治時代、登山文化の広がりとともに六甲山系には茶屋がいくつもあり、地元の炭酸飲料が愛飲されていたそうです。

布引の滝・雄滝をのぞむ場所に大正3年(1914年)創業の「おんたき茶屋」においても、それを裏付けるように昔の写真に布引礦泉所の「ヌノビキタンサン」が写っていることが最近分かりました。

おんたき茶屋で写された写真と「ヌノビキタンサン」を再現した瓶 

そうした流れから、大正時代メニュー表にあったラムネを、この歴史ある茶屋で楽しんでもらおうと、「大正ラムネ」を不定期ながら販売することになりました。

使ったのは、当時と同じく「オールガラスラムネ瓶」です。

20年以上前に製造が終了し、現在では希少品となったものを兵庫鉱泉所の協力により実現。飲み口までひんやり冷たいものに再現できました。

またラベルは、おんたき茶屋さんに残っていた昔の木印を取り入れて、レトロな雰囲気を醸し出しています。

実は、志方さんは神戸市職員。

地域貢献応援制度を使って活動されているそうです。

「炭酸飲料の味も好きだけど、歴史や背景が好きで、それを知った上で飲むともっと美味しく感じるんです」

炭酸が神戸の観光資源へと育ち、伝統が続いていくように、そんな想いで奔走されています。

Information

炭酸飲料愛好会
Instagram 炭酸飲料愛好会のInstagramはこちら

【取材・文】川崎 哲章
神戸在住のPRディレクター&ライター。洗練された都会のイメージがありながら、自然を身近に感じられる街・神戸の魅力をもっと多くの方に届けていきたい。そんな想いで観光やグルメ、そして関わる人々を取材。灘区の六甲山にも海にもすぐ行ける場所に住み、カメラ片手にいろんな場所へ出かけています。

神戸公式観光サイト Feel KOBE
神戸の観光スポットやイベント情報、コラム記事など「神戸旅がもっと楽しくなるコンテンツ」を発信しています。

元記事:100年の歴史を感じる 神戸の”ソウルドリンク”

 

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観葉植物ペペロミアホープの日々の成長を見て癒されています。

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