神戸の夜の楽しみ方と聞いて、何を思い浮かべますか?1000万ドルの夜景、異国情緒あふれる街並み、港を吹き抜ける心地よい潮風。
そのすべてが揃うメリケンパークの夜に5分間、神戸の夜空を彩る「神戸港ウィークエンド花火」が開催されていることをご存知でしょうか。実はこの短い時間の中に、花火師の神戸への深い想いが込められています。
今回は、神戸港ウィークエンド花火を手掛ける明治20年創業の「有限会社岸火工品製造所」の5代目、岸洋介さんにお話を伺いました。

中学2年の時、父の手伝いで「みなとこうべ海上花火(現:みなとHANABI)」に行ったことがきっかけです。大勢の観客の皆さんが歓声をあげながら花火を楽しむ様子を肌で感じ、「なんて素敵な仕事なんだ」と感銘を受けました。
もともと魚釣りのルアーを自作するなど、ものづくりが好きだったこともあり、「自分でなにか作る」ということにも惹かれました。母からは「ほかの仕事を見てからでもいいのでは」と言われましたが、高校卒業と同時に花火師の道を選びました。
早くから現場に携わったことで、近年メジャーになっている音楽と花火を掛け合わせるという演出にも初期の段階から深く関わることができ、そのジャンルを開拓できたことは大きな収穫でした。

【左】岸 洋介(きし ようすけ)さん(38歳)・有限会社岸火工品製造所 代表取締役
好きなもの:刺身、お酒、釣り、カヤック、自然(水辺)で楽しむこと
【右】父・良治(りょうじ)さん
令和5年4月、明治20年創業の歴史ある会社を良治さんより引き継ぐ
安全性にはとてもこだわっています。作業時の服装や工場の中のルールなどを徹底し、たとえば、「花火を投げない・落とさない・引きずらない」といった基本を大切にしています。そのうえで、新しいことに挑戦する姿勢も忘れません。
昔ながらの技術を守りながら、独自の挑戦も行っています。たとえば、徳島の伝統技術である藍染の深い色を花火で表現できないか。そう考えて2〜3年試行錯誤を重ねました。結果、昔の助燃材(花火の燃焼を助ける薬品)を使ってみたところ、理想とする藍色が表現でき、いまでは岸火工を代表する色となっています。この色を活かして、対比として明るい色の花火を組み合わせるなど、演出の幅も広がりました。
また、徳島の「阿波しじら織」(縦糸と横糸の張力差から生まれる特有の凹凸「シボ」が特徴の織物)から着想を得て、光の縦軸と横軸を掛け合わせた「阿波しじら変化牡丹」という花火も開発し、岸火工を代表する花火のひとつになっています。

玉込めの工程(2.5号の花火玉。神戸港ウィークエンド花火でも使用される。)
やはり「みなとこうべ海上花火」は、私が花火を始めるきっかけになった大会なので、思い入れがあります。
海に花火を垂らすなど、海上打ち上げならではの演出ができるのも魅力でした。当時は年に1回の開催だったため、じっくり時間をかけて準備する過程も楽しみのひとつでした。
「神戸でこんな花火を披露したい」とイメージしながら作るのは楽しく、大変なことがあっても、観客の歓声ですべてが報われる――そんな良いサイクルの中で取り組めたことが印象深いです。

神戸港ウィークエンド花火の大きな特徴は、海上から打ち上げることができる点です。フェリータイプの台船を使用しており、状況に応じて自由にポジションを調整できるのも魅力の一つ。船の設備も整っており「船にトイレがある」ことも意外と大事なんです(笑)。海上でそうした心配をせず作業できるのはありがたいですね。
また、花火師は「起承転結」を念頭に花火の演出や構成を考えます。(あまり大きな声では言えませんが、花火師が本当に集中するのは花火のラスト5分と言っても過言ではありません。)
神戸港ウィークエンド花火の打上時間は5分間ですが、まさにこの5分間というのがポイントで、神戸では通常の花火大会の“一番おいしいところ”だけをコンパクトに楽しめることがメチャお得なんですよ。気軽に訪れ、短時間で満足感を得られる――そんなカジュアルな楽しみが神戸という都市にフィットしていると感じます。もうちょっと見たかったという余韻が残るのもポイントかもしれませんね。
年間を通じて行うため、季節ごとに違う種類の花火をどんどん出していくことができるのも魅力のひとつです。実は新作花火を出していっているのでフレッシュなものを見ていただくことができます。バレンタインにはハート型の花火など、季節感を楽しめる花火をぜひ楽しんでほしいですね。

製造面ではコツコツと地道な作業の積み重ねですね。岸火工では約10名で製造していますが、一人でできる仕事ではなく、分担しているからこそ大変でもあり、やりがいもあります。
現場では予期せぬトラブルも。たとえば運搬トラックが故障して、急きょ代替車に積み替えて運んだこともありました。花火を打ち上げるだけでなく、万が一のトラブルへの対応も花火師の重要な使命だと思っています。
また、天候による中止判断も時には必要です。安全に花火を届けるためには、慎重な判断が不可欠であり、それが長く続けていくための基盤だと考えています。

星を和紙で包む工程

丁寧な工程を経て作られる花火玉
たとえば、神戸ポートタワーや神戸海洋博物館の光と花火がうまく馴染んでいくといいですね。“神戸の日常に花火がある”というイメージが定着するなど、花火が「主役」というより、神戸港の風景を彩る「ひとつのピース」になれたら理想です。

花火とBE KOBEモニュメント

花火と神戸港の夜景
花火の可能性をもっと広げていきたいです。たとえば、アーティストとコラボレーションして時間をかけて作り込むようなアート性の高い花火作品にも挑戦してみたいですね。
また、地域課題の解決にも花火が役立てられればと考えています。たとえば、徳島では放置竹林が問題になっており、その竹を炭にした花火など、素材から工夫できる可能性もあります。いろいろな可能性を探っていくことも会社としての使命だと思っています。
さまざまな分野とのコラボレーションを通じて、これまでの花火業界の枠を超える表現に挑戦していけたらと思っています。もちろん、そこにはさまざまな制約もありますが、それすら楽しみながら取り組んでいきたいですね。

(あとがき:編集より)
花火師としての原点が神戸にあったというお話には驚きでした。花火を打ち上げるだけでなく、これからの可能性を探り続ける岸さんとともに、神戸港の花火も未来へ歩んでいきます。
神戸港ウィークエンド花火
日時 原則第1、第3土曜日 ※開始時刻は時期によって異なります。公式HPおよびinstagramをご確認ください。
打上時間 約5分間(開始時刻は時期によって異なります)
場所 メリケンパーク(神戸市中央区波止場町2)※メリケンパーク沖に設置する台船から打ち上げ
料金 観覧無料
申込方法 事前申込不要
HP https://kobe-minatonoyoru.com/
Instagram https://www.instagram.com/kobehanabi/
備考 雨天決行・荒天中止(中止の場合は公式Instagram等でお知らせします。)

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