神戸の“コーヒー・ストリート” 栄町の個性派ショップ  Feel KOBE

コーヒーを通じて新たな“神戸らしさ”を発信「Lima Coffee」

かつて銀行だった重厚な建築は細部の意匠にも注目

 栄町界隈で新たなコーヒーショップの先駆けとして、「ROUND POINT CAFE」と同年にオープンしたのが「Lima Coffee」。「アンティークやヴィンテージなど歴史を感じるものが好きで。港町とゆかり深い建物が多く残っていて、かつ新しいカルチャーが生まれる場所として、栄町に魅力を感じていました」という店主・橋本潤也さん。幼馴染と一緒に立ち上げた店は、わずか4坪の空間に焙煎機とカウンターを詰め込んだ、ロースター&スタンドとして始まりました。

 兄がインドネシアで仕事をしている縁で、現地との貿易も手がけている橋本さん。自ら産地を訪れて仕入れる看板銘柄、インドネシア・マンデリンをはじめ、多彩な産地のコーヒー豆を揃え、スタンドでは珍しいサイフォンで新鮮な風味を提供。「Lima」とは、インドネシア語で「5」の意味。コーヒーの味を作る甘・苦・酸・香り・コクの5つの要素を表し、「人の五感を刺激するコーヒーで、暮らしを楽しく」との思いが込められています。

 ユニークなスタイルで支持を得て、開店3年で香川に姉妹店を出店するまでに。地元密着の小さな店は、コーヒーを通じて人との縁を広げ、4坪には収まりきらないほどに存在感を増していきました。

店の入り口付近は気軽なスタンドの趣。所々に元の建物の“肌触り”を残している

奥のカフェスペースは、照明を抑えた隠れ家的な雰囲気で、ゆったりくつろげる

 その後、 2020年に現在の場所に移転リニューアル。「香川に広いお店を作ったことで、創業の地である栄町の店を大きくしたいという思いはずっとあって」と橋本さん。やるならば神戸らしい歴史ある空間でと考えていた時に、今の建物に出合い一目ぼれ。元銀行のモダンな外観、壁や意匠の一部を残してリノベートした空間には、アンティークの家具や調度を合わせて、入口すぐはカジュアルなスタンドに。さらに奥には、移転前にはなかったカフェスペースも新たに設置。レトロな建築に今様のセンスを取り入れた、ユニークな空間へと生まれ変わりました。

手軽なドリップバッグも人気。「街をアピールする一助に」と、この春に新たに神戸限定パッケージをリリース予定

定番のリマブレンドのほか、10種以上のシングルオリジンは同じ産地でも農園が頻繁に入れ替わる。移転を機に、新たにエスプレッソ専用のブレンド3種を日替りで提案

 “本店”としてふさわしい新天地を得て、心機一転のスタートを切った新生「Lima Coffee」。カフェスペースが広がったことで、コーヒーのお供になるメニューも充実。ご近所の人気店「加集製菓店」に特注する「カヌレ・ド・リマ」や、ドイツのマイスター資格を持つ職人が手掛けるバウムクーヘンなど、地元の店とコラボしたオリジナルメニューは新たな店の名物に。華美なスイーツではなく、あえてクラシックな洋菓子を揃えたのも、歴史を愛する橋本さんのこだわり。

 「店や人のつながりが密なのが神戸の土地柄。そこから従来の神戸の魅力と一味違うカルチャーを作っていきたい」と、今もコラボメニューや新提案のアイデアが進行中です。

希少な手作り黒糖を使った今帰仁黒糖ラテM 600円(テイクアウト550円)。底に沈んだ黒糖の粒を噛むと、香ばしい苦味とコクのある甘味が溶け合う。カヌレ・ド・リマ380円。濃厚な甘みとラムの香りが相まった芳醇な後味が印象的

リマブレンドS500円・L550円。マイスターお手製のバウムクーヘン10g100円~の量り売り(写真は50g)。口どけの良い生地は甘さ控えめの質実な味わい。ハードな食感とシナモンの芳香が後を引く、スペクラチウスクッキー200円

 栄町は旧居留地・南京町・ハーバーランドといった程よい距離感があり、「新たな場所、空間を得たことで、市内の人の流れをつなぐハブ的な存在として、もっと幅広いお客さんが店に集まるようにしたい」と橋本さん。地元の常連に交じって観光客が出入りする店内は、開港以来、様々な人々が行き交った港町らしい雰囲気を醸し出す。神戸の歴史を刻んだ空間は、界隈の新たな拠り所となって、さらなるコーヒーの縁が広がっていきそうです。

2年前から販売を始めた多肉植物「アガベ」も、インテリアのアクセントに

店の最奥に併設した焙煎室には、各国から届く生豆がそこここに

information

Lima Coffee
住所:神戸市中央区栄町通3-2-6
電話番号:078-335-6308 
営業時間:9:00〜18:00 
定休日:水曜

今もレトロなビルが数多く残る、栄町のメインストリート・乙仲通

 ところで、実は遡ると栄町は、かつて海運貨物取扱業者が軒を連ね、近隣に多くの喫茶店がひしめいていました。界隈には、戦前に定期船貨物の取次をする「乙種海運仲立業」として集約された港湾労働者、略して「乙仲」と呼ばれる人々が集まり、栄町を東西に貫く乙仲通の由来となっています。乙仲は、毎朝、各会社に集合する前に好みの喫茶店でコーヒーやモーニングを頼むのがお決まりで、大挙して集まるため開店前から行列ができるのは日常茶飯事。乙仲はそれぞれ所属業者の札を持ち、伝票は後でまとめて会社に届けられたとか。会社への出前も頻繁にあり、喫茶店は欠かせない存在でした。

 そんな栄町が、奇しくも“コーヒー・ストリート”と呼べるエリアになったのも不思議な縁を感じます。かつての港町の面影と新たなカルチャーが入り混じる界隈に、相次いで登場したコーヒーショップは、今また多くの人々の新たな拠り所として定着。コーヒー片手に、港町の時代の流れを感じてみてはいかがでしょうか。

【文】田中慶一
神戸の編集プロダクションを経て、フリーランスの編集・文筆・校正業。関西の食を中心に情報誌などの企画・編集を手掛ける。また、学生時代からのコーヒー好きが高じて、01年から珈琲と喫茶にまつわる小冊子『甘苦一滴』を独自に発行するなど専門分野を開拓。全国各地で訪れた店は約1000軒超。2013年より、神戸市の街歩きツアー「おとな旅・神戸」でも案内人を務め、2017年には、『神戸とコーヒー 港からはじまる物語』(神戸新聞総合出版センター)の制作を全面担当。

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