神戸のディープインパクト「横尾忠則」の世界が楽しめる『横尾忠則現代美術館』に行ってきた

そんなこんなで、事件当日

外は突然に訪れた寒波で、晴れ空に雪がちらつき始めています。

美術館の壁には、「本日、事件を起こす」と予告された横断幕が風にはためいています。足音を潜めながら館内へと入っていくと、それは既に始まっているようでした。

人だかりの向こうに、筆を操りキャンバスに色を重ねている横尾氏の姿が見えます。

会場内を取り囲む重々しい緊張感を、何とかして無理やり掻き消してやろうと言わんばかりに、ロックンロールがシンと静まった館内に淡々と響き渡っていました。

不意に筆を持ち変えると、今度は刷毛でザッ、ザッとキャンバスに音を立て始めた横尾氏。

絵が大きく変化します。全体的に黒っぽかったキャンバスに明るい色が入り、まるで世界が入れ替わるように描き換えられていきます。とても大胆です!「チンパンジー状態で描いている」と言う横尾氏、まさに瞬間瞬間でそこに辿り着いているようです。

音楽が切り替わり、ロックから抽象的な、歌詞のない音楽に変わります。

心の内側に向かっていくようなその音楽と、絵の行方が徐々にシンクロして奥へと引っ張られていくように感じられます。見ている私達の息も、それにシンクロして次第に細く小さくなっていきます。

うっ、こ、呼吸が…両目が白眼になりそうな頃に音楽がまた切り替わり、会場は大きくひと呼吸し、私達は命拾いしました。まさに息の詰まる思いでした。

そんな会場の状態を、横尾氏はさっきから敏感に感じ取っています。後ろからグサリ突き刺さる想念と、ひとりでずっと戦っているのです。

自我が消えて無になる瞬間…横尾氏がそこへたどり着くまでに耐えなければならない試練は、なかなかにハードです。やがて長い時間が経過し、気がつけばその絵は、もうだいぶ仕上げに近づいているようでした。

まるでマジック!一体「彼」はどこに消えた?

昨日の記者会見で明らかにされた今回の公開制作の内容、それは「過去の自分の姿を描く」というものでした。

図録のジャケットに、熊本の美術館で公開制作をしていた際の横尾氏の後ろ姿の写真が使われているのですが、その写真を絵に描きとるというのです。

「公開制作をしている横尾忠則の後ろ姿を、横尾忠則が公開制作する」というパラレルワールド。過去と現在が目の前で交差しています。

これはどういう感じと言えばいいのでしょうか、とにかく不思議なパフォーマンスです。きっとここが、横尾忠則が奇才と呼ばれる所以なのでしょう。

絵の中にあるのは過去の時間、それを書き込んでいるのは現在。時間は進んでいるのか戻っているのか、キャンバスの内側の世界を覗き込むことによってそれはどんどんと曖昧になっていきます。

「きりがないから、今が引き際かな」

横尾忠則氏は誰に言うともなく、突然にその終わりがやって来たことを告げました。

「(自分の絵に)何を見て欲しいとか、そういう欲求は何もない。描いているという瞬間が目的なのだから。この場を立ち去ると、僕はもういない。あるのは絵だけだ。」

う~ん、渋い!まるで演劇を見ているかのようです。意味深な言葉を残して立ち去った彼が、その場に置いていった「もう一人の彼」。

人々はそのもう一人の彼を取り囲み、その存在を切り取って持ち帰ろうとしきりにシャッターを押し続けています。絵を描いていた彼はもうここにはいないのに、キャンバスの中で「彼の過去」が絵を描き続けているというその不可解さ。

「時間はあってないようなものだ。」絵の奥にいる横尾氏がこちらに向かって話しかけてきます。

絵の中で絵を描き続ける横尾氏。だとすればこの公開制作は、一体いつ終わりがやってくるのでしょうか。

絵の中に過去の時間を復活させ、今という時間を消してしまったこの公開制作…まさに、事件です。

最後に。横尾ワールドに行ったら是非やるべき事、3つ。

さてさて。そんな「事件」を想定した公開制作から、趣向を凝らした展示企画など、様々なイベントを楽しめる「横尾忠則現代美術館」。

愛情を込めて「横尾ワールド」と呼んでいます。毎回いろんな仕掛けがされていて、とにかく次は一体、何をやってくれるんだろうとワクワクしちゃいます。

ちなみに最近あった展覧会は「横尾忠則 在庫一掃大放出」。

宣伝ポスターは、自分の作品いっぱいに「SALE」の文字を書き込みまくっているといった様相で、そのぶっ飛び具合は画家の域を超えてもはやエンターテイナーです。

自分の作品でここまで遊んじゃえる有名画家さんなんて、世界広しといえども彼ぐらいなものでしょう。

では、最後にご提案です。

横尾ワールドに行ったら是非やるべき事、その1。

建物の最上階に、何ともインスタ映えする場所があります。通称「目玉廊下」と呼ばれる小さなスペースなのですが、その空間で色んなポージング写真を激写!もちろんコスプレも映えます。SNSアップ大歓迎ということで、インスタグラマーは腕の見せ所ですよ。

視覚のトリップというか、ちょっと不思議な感覚で映るこの空間を使って、是非ともあなただけのオリジナリティー溢れる一枚を撮っちゃって下さい。

その2。イベントに合わせて行く。横尾ワールドでは色んなイベントをやっています。かなりマニアックなので、是非その深みにハマりに行ってみて下さい。内容はホームページで随時アップしています。

その3。横尾グッズをゲット。

横尾ワールド内にあるアーティストショップの内容、これがマジ、凄いんです。横尾ワールドがここに凝縮されて敷き詰められているかのように濃厚です。

覗き込んだ瞬間、ショーケースに張り付いてしまうほどです。世の中を笑い飛ばすような挑発的なデザインや、キモ可愛いグッズなどで溢れかえっていて、とにかく楽しいのです。シュールでぶっ飛んだ横尾ワールドの総決算、是非おウチにお持ち帰りしてください!

以上、神戸が誇るスーパーアーティスト「横尾忠則」氏の美術館からお届けいたしました。

施設名横尾忠則現代美術館
ジャンル美術館
住所神戸市灘区原田通3-8-30
電話番号078-855-5602
営業時間10:00~18:00(入場は17:30まで)
※展覧会開催中の金・土曜日は10:00~20:00(入場は19:30まで)
定休日月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始、メンテナンス休館
リンク公式サイト / Facebook / Twitter
駐車場なし

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