神戸のディープインパクト「横尾忠則」の世界が楽しめる『横尾忠則現代美術館』に行ってきた

晴れ渡った気持ちの良い日。先日からの寒波の訪れにより、空にはチラチラと白い粉雪が舞っています。

ここは王子動物園のはす向かいにある、とある美術館。のんびり晴れた空とは裏腹に、この後ここで起こる不可解な事件をいったい誰が想像できたでしょうか。

えっ、何なに?気になりますよね~その前に、突然ですがここでクイズです。

こちらの美術館、その中ではある芸術家の作品が常に展示されているのですが、兵庫県が生んだ「スーパーアーティスト」と言えば?

ヒント…その人物はNY、パリ、ベネチアなど世界的に認められた有名画家で、俳優さんでもありました。「えーっと、杉良太郎?」惜しい!近からず遠からず~

ヒントその2。彼は、初期のグラフィックデザイナー時代に、テレビドラマでは昭和の東京下町を描いた「寺内貫太郎一家」に出演、映画主演や雑誌モデルの経験もあり、お茶の間でもその茶目っ気たっぷりな才能を披露していました。

ですが残念ながら杉様ではありません。で、誰?

えっと、その他の活動はというと。本業のグラフィックデザイナーとしての活動はとにかくワールドワイドで、1970年代に「The Beatles」、「Earth, Wind & Fire」など多数のミュージシャンのポスターデザインを手掛けました(凄い!)。

中でもSantanaの3枚組ライブアルバム「Lotus」のジャケットデザインが話題をさらった後に、ジャズ界の大御所Miles Davisのジャケットデザインを手掛けるなど、彼の才能は海外でも注目されていました。

さてと、ここまでくると想像がつきましたか?彼とは一体、誰なんでしょうか。

そう、正解は~っっ「横尾忠則(よこおただのり)」!

あぁ、聞いたことあるわぁなんて人がほとんどでしょうか。だけどそんなに凄い人物だとは…そうなんです、彼のめくるめく才能の全容を知っている人は余りにも少ない。

神戸市民の皆さん、これは勿体ないですよ!こんなに近くにここまでも凄いアーティストがいるのに。そしてその作品がホントに真近に見られるのに、「横尾忠則現代美術館」に行ったことがないなんて~


神戸市灘区原田通3-8-30

横尾氏の作品といえば最近のものは、大河ドラマ「いだてん」の題字とポスターです。

見たことある人、はーい!そうですよね、今なにかと話題のオリンピックが題材の番組ですから。あの題字が、テレビ画面の上で回転している姿を見た時に、一瞬そのイメージがくっきりと脳裏に焼きつきませんでしたか?

そうです、それが横尾忠則なんです。とにかく彼の作品はひと言でいうと、「ディープインパクト」なのです!

と、ここまで呼吸も荒く横尾氏の活動をご紹介してきましたが、何故いま横尾忠則なのか、と疑問に思っているあなたにお答えしましよう。ここだけの話なんですが、実はこの「横尾忠則現代美術館」で、事件が起こってしまったんです…

事件は現場で起こっている!ということでLet’s Go

『事件現場からお伝えします。現在、「横尾忠則現代美術館」にて横尾容疑者と大勢の目撃者が立てこもっている模様です。

現場は一面のガラス張りの壁になっておりますが、中の様子は押しかけた人々の後ろ姿で残念ながらよく見えません。

この中で、先ほどから容疑者でもある世界的アーティスト「横尾忠則」氏が、ここでは5年ぶりとなる「想像に留まらぬ創造」を起こしているという情報です。一体どういうことなのでしょうか?

現在、事件途中で別室に姿を消した横尾氏を待つ状況にも関わらず、事件が佳境を迎える時を見逃すものかと人々が詰め寄り、終始緊迫した空気が流れています。

あっ、突然「横尾忠則」氏が現れました!周りを数人の人々に取り囲まれての登場です。

真っ赤なパーカーとジャージのズボンといった姿でキャンバスに歩み寄ると、おもむろに長い筆をシャッと一振り、既にその全容を表しつつある絵画を切り込むかの如く線を入れ始めました…(静かにフェイドアウト)』

背後から突き刺さる恐怖に、やらされてしまうんだ…

1月25日、事件前日。その陰謀は密かに始まろうとしていました。

「横尾忠則現代美術館」にマスク姿で現れた横尾氏は、明日から一般公開する展示会場を歩き回り、過去の自分の作品を眺めては、まるで初めて見たかのようなフレッシュな反応を示していました。

やがて、横尾氏がポツポツとこぼす証言により過去の事件が明かされていきます。

「公開制作を30年間やってきたけど、毎回どうなるのか自分にもわからない。絵を描いていると、後ろからの人の無言の要求や想念が背中に突き刺さって、自分は操り人形のようになっていく。その恐怖で絵を描かされている。」

「そのうち周りの人が見えなくなってくる。描いているうちに時間が消えて、自我が消えて無に向かっていく。それが来るのを待って、見えない力によって描かされていく、それが公開制作だ。」

観客とは共犯関係でもあるという公開制作、そこに至る動機を横尾氏は静かに語ります。う~ん、ミステリアス!そう言えば横尾氏は、霊的感覚の持ち主としても有名なんですよね。

その実体験を物語として書いた本もあり、更にそれが絵になったものが美術館に展示されたりもしていますが、これが結構リアルなんです。

いつでも何かが起こる!?公開制作の謎

例えば次にご紹介するこの絵…横尾氏の頭の中にあるイメージでしょうか。あの世からこちらを見ている風景画、高い岩場から下に渦巻いて下っていく「時間」を覗き込んでいる人たち。

実はこの絵には少しゾッとするようなエピソードがあります。

大手前大学での公開制作で、この絵を描いた横尾氏は終わってからも何か物足りなさをずっと感じてモヤモヤしていました。

そこで後ほど「頭」のシルエットを沢山書き込んだ所、以前にそこの大学が関わった大坂城三の丸跡の調査で、何と豊臣秀頼の頭蓋骨が出土していたということが判明したという話。

ひえぇ、マジですか…それって絵を描いている最中に霊を密かに感じ取っていたって事ですよね?後にこの絵の中に、首塚の文字や骸骨などが描き加えられたというホラーのような実話です。

横尾氏が「無我状態」になるという公開制作では、その会場にいる人々だけでなく土地や霊とも繋がって、影響を受けて制作しているという事がこの一件で証明されているかのようです。

そうかと思えば、持ち前の茶目っ気を前面に出す時もあります。いわゆるコスプレです。

会場に置いてあるこの鳶服…横尾氏はこういう感じのコスプレで絵を描いたりもしました。その後ろにあるスクリーンでは、工事現場の格好をして制作した時の映像が流れています。このユルい違和感、絶妙です。

そんな中で異彩を放っているのが、この作品。

日本軍の特攻服を着た自転車青年の周りに、大粒の雨のような模様があります。

よくよく見てみるとそれは全て人物の白黒写真でした。どこか重暗い、そして儚い命の影を感じるこの作品…その隣には横尾氏の何気ない日常、自転車と自分が写っているだけの写真のコラージュ、しかもタイトルは「お出かけは自転車で」。

これらを両隣に並べたそのシュールさに「うわっ、やられた~」と思わされてしまいます。

どう説明したらいいのか分からないけど、とにかくその「やられた感」を常に味わえるのが横尾忠則現代美術館なのです。

これは行った人にしか分からない感覚なのですが、「うっ、やられた!」というリアクションを実体験して欲しいのです。何故ならこのリアルやられた感は、ことのほか楽しいんです。どうせならコスプレで行くのも、自転車で行くのもありです。あ、話がおもいっきり逸れてしまいました。

 

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