皆さんは日本酒をどうやって飲むかと聞かれたら、何と答えますか?
おそらく「冷や」や「熱燗」など、「どの温度帯で飲むか」を答える方がほとんどなのではないでしょうか。
日本酒は日本酒のまま飲むのが当たり前。そんなお酒好きの固定観念を吹き飛ばしてしまう“マッチングイベント”が2025年5月18日、神戸市内で行われました。
出会ったのは、灘の酒とバーテンダー。
「FUKUJU Sake Cocktail Competition 2025」
日本酒カクテルをバーテンダーが競い合う大会です。
主催したのは、ノーベル賞晩餐会でも提供された日本酒「福寿」を醸造する神戸酒心館。
大阪・関西万博を契機に神戸を訪れる国内外の人たちに日本酒の新しい魅力を広めようと、このたび初めて「福寿」を使ったカクテル作りのコンペティションを開催しました。
伝統と革新を重んじる神戸酒心館、目のつけどころがさすがです。
神戸市から西宮市にかけての沿岸部の五つの地域は「灘五郷」と呼ばれ、清酒生産量日本一を誇ります。灘の酒は江戸時代から現代に至るまで、人々を魅了し続けてきました。
一方、1868年の神戸港開港以降、外国文化の入り口となった神戸では洋酒文化が花開き、数々のバーが誕生しました。バーは港町神戸を象徴するような存在です。
確かに、日本酒とバー、この二つはこれまで神戸が誇る文化でありながら、意外に交わってきませんでした。それを掛け合わせたこの日本酒カクテルコンペティション、面白くならない訳がありません。
では早速、灘を代表する日本酒「福寿」とバーテンダーが出会うことで、どんなカクテルが生まれたのか、ご紹介いたします。
①燦燦(さんさん)

「BAR 9月のライオン」(神戸市灘区)の高橋卓志さんの作品。
福寿の「御影郷」と「ゆず酒」に加え、白桃やアプリコットのリキュール、オレンジジュース、ライチピューレなどを組み合わせたカクテルです。
海外の方にも物足りなさを感じさせないよう120mlとボリュームのあるカクテルに仕上げられています。
神戸の明るい日差しをイメージした燦燦(さんさん)は、見ているだけでも元気になれそうです。
そのお味は・・・フルーツの甘みが溶け込んださわやかなテイスト。太陽を浴びながら夏に飲みたくなる一杯。低アルコールに設定されていて、お酒が強くない方でも安心して飲めそうです。聞くところによると、最近、世界のバーシーンでは低アルコールがトレンドになっているのだとか。
さらに、外国から神戸を訪れ、慣れない旅先で緊張している時でもこのカクテルの香りで癒されてほしい――そんな思いを込めて、ローズマリーが添えられています。
神戸出身で自身のバーが神戸酒心館の近くにあるという高橋さんのおもてなしの心があふれるカクテルでした。
②Fuku Rosa(フク ロサ)

「BAR 若林」(東京都大田区)の古山凛々香さんの作品。福寿の“フク”とスペイン語でピンクのバラ色を意味する“ロサ”を合わせて名付けられたカクテルです。このコンペティションに臨む気持ちを、ピンクのバラの花言葉の「感謝と幸福」に重ね合わせたそうです。
材料には「福寿 純米吟醸」とテキーラ、桃のお酒などが使われています。
日本酒と同じく、伝統と職人技が息づくメキシコの文化であるテキーラ。そのテキーラと福寿――国境を越えて伝統が重なり合うカクテルのお味は・・・すっきりとしたシャープな味わい。甘さ控えめで食前酒にも良さそうです。
テキーラはメキシコで作られる蒸留酒で、ブルーアガベという竜舌蘭を主原料とし、アルコール度数は38%と高めですが、するっと飲めるのは、白鶴酒造の「ぷるぷる桃酒」も入っているからでしょうか。
特徴的なのは陶器の器。陶器のお茶碗には「良いことが続く」「幸せの橋渡し」といった意味があるそうで、カクテルのイメージに合うと選ばれたそうです。また、添えられた“ガーニッシュ”(飾りつけ)は、ポートタワーをイメージした赤色のクッキーで、すべて手焼きとのこと。神戸のことに思いをはせて丁寧に作られていると感じる、心のこもった一杯でした。
③Port d’amour(ポート・ダムール)

BAR SLOPPY JOE(スロッピー・ジョー)」(神戸市中央区)の生田理実さんの作品。
福寿の純米吟醸と酒粕、チョコレートリキュールや牛乳などを使ったデザートカクテルです。神戸はスイーツの街とも言われることから、チョコレートをカクテルの材料に選んだとのこと。さらに関西ではなじみ深い酒粕を使うことで日本酒の香りが広がるよう工夫が凝らされています。
飲んでみると・・・甘くて、本当にデザートのよう。ふくよかな飲み口は、撹拌器を使って酒粕とリキュール類を混ぜていたからでしょうか。まろやかで上品な味わいです。
食前酒使いの「早がけバー」を楽しむ筆者にとっては、デザートカクテルは新鮮な出会いでした。
カクテル名は「愛の港」。港から発展していった福寿、愛のある人々が集まる神戸の街をイメージして名付けたそうです。仕上げには神戸の山を表すピスタチオ、グラスにはポートタワーを象徴する赤いラズベリーパウダーがあしらわれており、ビジュアルでも神戸を表現されていて、目でも楽しめるカクテルでした。観光やお仕事で神戸に来られた方にもおすすめできそうですね。
どのカクテルも伝統と革新を体現したような一杯で、日本酒の新たな可能性を感じさせてくれました。
外国人観光客が増える中、今後はバーで日本酒を使ったカクテルを求められる機会も増えてくるかもしれません。また、日本酒にあまりなじみのない日本人の方にも、まずはカクテルという入り口から親しんでもらう、というアプローチもあるかもしれません。
どれも素晴らしいカクテルでしたが、これはコンペティション。最後には優勝者を決めなければなりません。プレゼンテーション内容や、テクニカルスキル、作品構成力などが厳正に審査された結果、優勝の座を射止めたのは――
生田理実さんの「Port d’amour(ポート・ダムール)」でした! 書類審査を通過した3名の頂上決戦。50名の一般観客と4名の審査員が見つめる中、ファイナリストの皆さまは非常に緊張されたことでしょう。本当にお疲れさまでした。そして素敵なカクテルを生み出してくださってありがとうございました!!

ファイナリストと審査委員の皆さん
左からSake Experience Japanの加藤寛之さん、審査委員長を務めた神戸市中央区にあるバー「SAVOY hommage」の森﨑和哉さん(世界一の称号も持つ凄腕バーテンダー)、高橋卓志さん、優勝した生田理実さん、古山凛々香さん、神戸酒心館代表取締役社長の安福武之助さん、Sake Experience Japanの井谷健さん
BAR SLOPPY JOE
住所 兵庫県神戸市中央区下山手通2-16-2 サンビル2F-1
TEL 078-391-7810
営業時間 [月〜土] 17:00~01:00 [日] 15:00~LAST
定休日 不定休
URL https://sloppyjoe-kobe.com/
BAR 9月のライオン
住所 兵庫県神戸市灘区新在家北町1-3-20
TEL 078-600-2008
営業時間 17:30~02:00
定休日 不定休
URL https://www.instagram.com/bar_september_lion/
SAVOY hommage
住所 兵庫県神戸市中央区下山手通5丁目8−14 山手ダイヤハイツ1階
TEL 078-341-1208
営業時間 SAVOY hommage 月・水・金17:00~23:00/THE TIME 火・木・土17:00~23:00
※2025年4月以降、西宮市苦楽園のバー「THE TIME」を引き継ぐこととなったため当面の間、変則営業となっています。
URL https://www.instagram.com/kazuya.morisaki/
Bar 若林
住所 東京都大田区西蒲田7-5-14 シティプラザ蒲田304
TEL 03-6424-7346
営業時間 19:00~03:00
定休日 水曜日
URL https://bar-wakabayashi.com/
ライター:ナイトリサーチャー 真酔(まよい)
たぐいまれなアルコール分解酵素を内に秘め、ナイトタイムのリサーチを続ける遊牧民。
飲みすぎた次の日は、自分の肝臓に感謝を忘れない。
最近はお酒以外のナイトカルチャーにもフィールドを拡大中。

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元記事:日本酒 meets バーテンダー
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