全国でも珍しい人形専門の博物館『神戸ドールミュージアム』で、知られざるフランス人形の魅力に触れる

19世紀のフランスを中心に、各地の工房のアンティークドールを展示する「神戸ドールミュージアム」。

個人のコレクションを元にした小さな施設ですが、世界中から集めた貴重な人形が間近に見られる、全国でも唯一といっていい存在。西洋の人形文化の粋を感じられる、ユニークな博物館を訪ねました。


神戸市中央区三宮町3-1-17

華麗なる「フランス人形」の世界

『神戸ドールミュージアム』へは、JR・阪神電車元町駅から海側へ約5分。大丸神戸店や元町商店街のアーケードが立ち並ぶスクランブル交差点から東に伸びる、三宮本通沿いにあります。

界隈でひときわ目を引く、赤いテントとフラッグが目印です。

ビルを見上げると、シルクハットに片メガネ、パイプをくわえた…人? 独特の不思議オーラが出まくってます。

入口の前には、アンティークドールの顔ハメ看板も。斜めからだと分かりませんが、正面から見ると…。

人形の顔がピタッとはまって一枚絵に。もちろん、人の顔を入れて記念撮影もできますので、ぜひおさえておきましょう。

ミュージアムへ入ると、1階にはぬいぐるみや着せ替えの衣装があふれんばかり。ですが、ここは併設のショップ。

左側の階段がミュージアムへの入口です。レジが受付になっているので、入館券を買って上がりましょう。

場料
大人600円/小人(小・中学生)500円
※障がいのある方及びその介護の方(1名)は320円。/団体10人以上は各人100円引き

見上げるような細い階段が3階まで続いていて、どんな展示になっているのか期待が高まります。結構な急傾斜なので、足元にはご注意を。

展示室をのぞくと「!」。いきなり目が合って、ビクッとしてしまいました。いるならいると、言っといてほしい。

数々の人形は、館長の藤野賢二さんの父・直計さんが30年以上に渡って蒐集してきたもの。西洋人形の歴史・文化の情報発信を目的に、2002年に開館したのがミュージアムの始まりです。

以来、年に数回の入れ替えをしつつ、常時60~70体、時には100体もの人形が展示されるそうです。時期ごとの企画展も開催されていて、規模こそ小さいですが、数多く所蔵する貴重なドールが系統的に展示されている、全国的にもユニークな存在です。

2階は19世紀、フランスを中心にヨーロッパ各地の人形工房で作られたアンティークビスクドールの展示フロア。

ビスクドールとは、頭部を陶磁器で作った人形の総称で、正確にはフランス語で「ビスキュ」。「2度焼きする」という意味で、低温・高温の窯で2回焼くことから、この名が付いたそう。

お茶碗なんかと同じ材質ですから、人形の顔は変わらず100年前のまま。アンチエイジングどころかノーエイジングです。今にも動き出しそうで、常にどこかから見られているような、落ち着かない気分になってきました。

ビスクドールの原型は、貴族女性のファッションを宣伝するための等身大のマネキンで、自宅に置くためにサイズを小さくしたものが始まりとか。

特にパリで流行の衣装を纏った「ファッションドール」は、女子憧れの品。これが日本でもおなじみの「フランス人形」として、世界中に広まっていったんですね。

ビスクドールが製作された時期は半世紀ほどと短く、1860~80年代が黄金時代と言われています。

1870年に作られたこの人形は、当時のフランスを代表するメーカー「ブリュー」製。高さ80~90㎝と長身でマネキンに近いですね。衣装にはシルクやレースを使い、実物と変わらない作り込みよう。

目を引くのは顔。陶磁器ならではの滑らかな肌、当時の流行った細眉、メイクの微妙な色彩まで釉薬で再現されているのに驚きます。当時はリアルな目や肌の色みを出すため、ヒ素などの劇薬を使っていたそうで、現在では再現不可能。人形作りも命がけです。

何より、リアルなのが、この目! 館長曰く「怖いという印象を持たれますが、これがビスクドールの魅力。まず目を見てほしい」。人付き合いもそうですが、ドールに対しても目を見て対話するのが大事なようです。

「ブリュー」と並ぶ、フランスの名門メーカー「ジュモー」で、同じく1870年に作られた製のドールも、瞳はスパイラルアイ。こちらの衣装も、ドレスの細部から、シロチョウガイの扇子まで、繊細なレースをふんだんに使った贅沢な造りです。

ちなみに「ブリュー」と「ジュモー」は、同時代に腕を競った最大手のビスクブランド。この2つの名を知っていれば、貴方もビスクドール通です。

人形のほとんどは首から上だけがビスクで、ボディはレザーにおがくずなどを詰めたり、木製だったり様々です。時代が進むと、作り方やボディの材質も変わって、関節が動くボディも登場。ポーズにも変化が出てきます。

 

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神戸ジャーナル 編集部

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