「日本最古」といわれるコーヒー屋さんが神戸にあるのをご存知ですか?
今から約140年前、1878年(明治11年)に創業した老舗珈琲店『放香堂加琲』です。
今回は、数えきれないほどのコーヒー屋さんがある神戸で、ケタ違いに長い歴史と伝統を持つ『放香堂加琲』をピックアップ。
元町商店街で現在営業中の「喫茶部門」のヒミツを聞いてきました。
Index
・日本最古の珈琲店が神戸に!?
・喫茶部門の誕生
・石臼挽きのヒミツ
・“明治復刻コーヒー”麟太郎をいただきます
・まとめ
日本最古の珈琲店が神戸に!?
『放香堂加琲』は、「日本最古」と言われている珈琲店です。
京都・和束町の宇治茶農家が、京都から一番近い貿易港・神戸港で「お茶の輸出」と同時に「コーヒー豆の輸入」を始めたのが成り立ちなんだそう。
当時日本から輸出されていたのは「繭(まゆ)」と「茶」がメイン。その帰り道に、コーヒー豆を積んで帰ってきたんですね。
現在「神戸市立博物館」で展示されている、当時の商人たちの様子を描いた「木版画」に、放香堂が記録されています。これが「日本最古」と言われる所以です。
現在の店名に使われている文字が「珈琲」ではなく「加琲」なのは、この看板に倣ってとのこと。
主にコーヒー豆を販売していましたが、当時の新聞広告には「焦製飲料コフィー店内にてお求め、或いは飲用自由」とありました。
どうやら木版画にある縁側のようなスペースで、「飲み物」としてコーヒーを提供していたそうです。
喫茶店やカフェのようなお店ではなく、ちょっと立ち寄って店先でコーヒーを飲んでいく、今でいうコーヒースタンドのような形態だったんでしょうか。
いくつかの辞書では、日本における珈琲店の起源として「放香堂加琲」が紹介されています。
神戸港が開港したのは1868年、放香堂がコーヒーを取り扱い始めたのが1878年なので、いかに早い段階でコーヒーに注目したのかがよく分かりますね。
その後も長らく「コーヒー豆の販売+ドリンク提供」という営業形態が続いていましたが、戦争が原因でコーヒー豆の取り扱いそのものが途切れ途切れに。
本業はあくまでも「お茶屋さん」だったので、経営の代替わりなどもあり、コーヒー部門の規模はそこまで発展させなかったそうです。
喫茶部門の誕生
さて、現在の「放香堂加琲」がオープンしたのは2015年のこと。
喫茶部門をスタートすることになった経緯を伺いました。
それまで「日本最古の珈琲店」という希少な存在でありながら、その味を楽しめる機会はそこまで多くはなかったそう。
そんな中、取引先や関係者の人から「そんなすごい歴史を持ってるのに、もったいないやん」という声がありました。
さらに「放香堂加琲」が生まれたきっかけでもある神戸港が、2017年には「150周年」を迎えるという時期。
コーヒー部門を盛り上げるにはこのタイミングしかない!ということで、「神戸港開港150周年」に合わせてカフェをオープンすることに決めたそうです。
本格的にカフェを併設するにあたって、明治から続く歴史をどう活かすかと考えたときに思いついたのが「石臼挽き」。
創業当時、コーヒー豆を挽く「ミル」という機械が日本に伝わっていたかどうかは不明なのですが、少なくとも一般的には普及していませんでした。
放香堂でもそれは同じで、ミルの代わりに、薬などをすり潰す道具「薬研」や、抹茶を挽く「茶臼」などが使われていたのではないかと伝えられているそうです。
豆を「挽く」というよりも「すり潰す」というイメージに近かったのかもしれませんね。
約半年の開発・改良を経て、「コーヒー豆専用の石臼」が完成しました。
茶葉を粉々にする「抹茶用」のものよりも目立てが荒く、コーヒー豆を押しつぶしてしまわないような絶妙な重さに仕上げられているそうです。
現在は元町商店街に面したカウンターに設置されていて、タイミングが合えば、店員さんが豆をゴリゴリと挽いているところを見ることができますよ。
石臼挽きのヒミツ
そんな「石臼」ですが、そもそも現代の私たちにとって「臼」って馴染みはないですよね。
そこで、豆を挽いている様子を見学させてもらいました。
まずは、コーヒー豆を石臼の上部にざらざらっと入れます。
真ん中らへんに空いている穴から隙間に豆が落ちていく仕組みですね。
持ち手を持って、石臼の上の部分をぐるぐると回していきます。
ザリザリというか、ガリゴリというか、およそコーヒー屋さんでは聞こえてこなさそうな音が響いていました。
ある程度はまとめて挽くものの、電動ミルのようにガーっと一瞬で終わることはなく、なんとものんびりした光景です。
石臼の間にコーヒーの粉が落ちてきます。溝に合わせた小さなハケが取り付けられていました。
豆を挽くときにどうしても熱が発生してしまうミルとは違い、石臼で挽いた場合には、温度変化がほとんどないそうなんです。
つまり豆に余計なストレスをかけることなく、豆本来の香りをそのまま残すことができます。
挽かれたコーヒー粉は、手前のボウルに落ちてくる仕組み。
「粗め」「細かめ」の挽き具合が混ざりますが、均一ではないからこそ生まれる複雑な味わいがあります。
また、豆をスライスするような挽き方になるミルよりも、重みを加えることで砕けるような挽き方になる石臼の方が、コーヒー粉の「断面」が多くなるそうです。
断面が多いことで、抽出するときに成分が溶け出しやすくなり、しっかりと旨味を感じるコーヒーが出来上がるそうですよ。
“明治復刻コーヒー”麟太郎をいただきます
喫茶部門と同時に誕生した看板メニュー「麟太郎」。
当時の木版画に記されている「印度産」「焦製飲料」という言葉から生まれた、明治時代のコーヒーを思わせる豆です。
使用している豆は、インド産のアラビカ種のみ。
また、当時の日本人にとって驚きの苦さだったんだろうな…と想像できる「焦製飲料」という言葉から、「深煎り焙煎」で酸味の少ないタイプに仕上げられています。
抽出方法には、当時を再現した「フレンチプレス」が採用されています。
明治時代にペーパードリップは存在せず、トルコのコーヒーのようにコーヒー豆を煮出して、その上澄みを飲んでいたようです。
意外とカフェなどで目にする機会の少ないフレンチプレス、淹れるところを特別に見せてもらいました。
まずはコーヒー粉を入れたガラスポットに、定量のお湯をそそぎます。
ぶわっと泡が立って、お湯をそそぎきったら、フィルターのついたフタを閉め、4分間「蒸らし」の工程に。
4分経ったら、フィルターがつながった棒をぎゅーっと押し込みます。
これで、コーヒー粉を「ろ過」するんですね。
さらに濾しながらカップにそそいで完成です。
「フレンチプレス」と聞くとなんだか難しそうな響きですが、必要な道具も少なくかなりシンプル。
明治時代はもっと簡単に鍋でコーヒーを煮出して、同じように濾して飲んでいたんでしょうか。
看板メニュー「”明治復刻コーヒー”麟太郎」をいただきます。
確かにしっかりとした苦味とコクを感じますが、意外にも飲み口は軽やか。
深煎りといっても一番深いものではないそうです。
フレンチプレス特有のオイル感はありますが、さらりとしていてすごく飲みやすい!
酸味はかなり少なく、とても「コーヒーらしいコーヒー」という印象でした。朝の一杯にも良さそうです。
まとめ
今回は、日本最古の珈琲店『放香堂加琲』をご紹介しました。
神戸にあるコーヒー屋さんというと、スペシャリティコーヒー専門店のような、イマドキのおしゃれなコーヒーショップをイメージする人も多いんじゃないかと思います。
明治から脈々と続く珈琲店が、元町のど真ん中にあるってちょっと不思議な感じがしませんか?
街歩きをしていて、「えっ、なんかコーヒー屋さんで”石臼”まわしてない?何あれ!」とちょっとでも気になったら、気軽に立ち寄ってみてください。
もちろんテイクアウトもOK。ふわりと漂う明治の香りを感じながら、神戸の街を歩くのもオツなものです。
【店舗名】放香堂加琲
【ジャンル】コーヒー
【住所】神戸市中央区元町通3-10-6
【電話番号】078-321-5454
【営業時間】9:00~18:00
【定休日】水曜日
【リンク】公式サイト / Instagram / 食べログ
【駐車場】なし
※紹介した情報は、記事執筆時点の情報です。また、神戸市内の開店・閉店情報、イベント、街の変化など、情報を求めています。ぜひ情報提供をお願いします。※自分のお店でもOKです。
ふうか
基本どこへ行くのも徒歩で移動します。
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