『神戸マニア』では、「これ知っとった?」と言いたくなるような、地元を再発見できる神戸のマメ知識を発信!「神戸の街歩きのネタ」や「市外から来たお友達へのうんちく」に役立つ情報をお届けします。
日本玩具博物館所蔵
みなさんは、神戸人形って聞いたことありますか?
小さな箱の上に人形が乗っていて、箱の横についた「つまみ」を回すと、人形が様々な動きを見せてくれます。実はこれ、明治時代から伝わる神戸の郷土玩具なんです。
今回は、神戸人形に関するマメ知識をご紹介。唯一現役で活躍する作家である「ウズモリ屋」の吉田太郎氏に聞いた、神戸の街や神戸人形に対する想いもお伝えします。
Index
・神戸人形ってどんなの?
・神戸人形の歴史
・現役唯一の神戸人形作家とは
・個性豊かな「オリジナル神戸人形」
神戸ジャーナルの読者のみなさんは神戸人形のことをどれくらい知ってるのか?ということで、公式Instagramでアンケートを行いました。その結果がこちら。
Q. 『神戸人形』知ってますか?
「知ってる」が13%(94票)、「聞いたことはある」が6%(43票)、「知らない」が81%(578票)という結果に。
「知ってる」の中には「神戸人形を持ってる」という人も3人いたものの、「神戸」という名前がついているにもかかわらず8割以上の人は「神戸人形」を知らないようでした。
神戸人形は、木製の小さなからくり人形で、神戸の郷土玩具です。
小さな箱の上に人形が乗っていて、箱の横についたつまみを回すと、人形が様々な動きをするという仕組みになってます。
動画の人形のテーマはスイカ喰い。左手に持ってる包丁でスイカを切って、その後右手でスイカを口に運んで…という動きを繰り返します。
人形の腕が動くだけじゃなく、スイカを食べるときはちゃんと頭が下を向いて、口も大きく開くんですよ。細かい部分ですが、スイカが食べかけの形なのもこだわりを感じます。
日本玩具博物館所蔵
「ウズモリ屋」の吉田太郎氏によると、神戸人形は明治半ば頃に生まれ、大正から昭和初期に多く作られました。当時は高価だったこともあり、「素朴な郷土玩具」というよりも「趣味の工芸品」といった趣だったそう。
日本人よりも神戸を訪れた外国人が多く買い求め、海を渡って海外でコレクションされたみたいです。
次は神戸人形の歴史について、もう少し詳しく見ていきましょう。
日本玩具博物館所蔵
神戸人形は明治の半ば頃に生まれました。はじめの頃は妖怪「ろくろ首」や「三つ目」のような見た目をしたものが多く、お化け人形とも呼ばれてたみたいです。
このような見た目をしていたのは、神戸人形の創始者といわれる「野口百鬼堂」が妖怪モチーフを好んでいたこと以外にも、妖怪や幽霊を扱った小説「雨月(うげつ)物語」が当時の日本で流行していたことも影響した可能性があるそう。
現代の日本でも「お化け」が登場するマンガやアニメなどがたくさん生まれてますが、日本人は昔から人と異なる存在に愛着を抱いてきたんですね。
日本玩具博物館所蔵
呼び名は他にも。「布引の滝」の茶店で売られたことから布引人形とも呼ばれてましたが、大正天皇(当時は皇太子)が購入したことがきっかけとなり神戸人形という呼び名が定着したと言われてます。
その頃には兵庫の名産品として最盛期を迎えていた神戸人形でしたが、太平洋戦争の影響で当時の作家たちが亡くなったことにより製作は途絶えてしまいました。
神戸市立南蛮美術館(写真は1951年、施設名称が「市立神戸美術館」だった頃に撮影されたもの)
昭和30年(1955年)頃、神戸人形の廃絶を惜しむ人々の動きもあり、「神戸市立南蛮美術館」の元館長や郷土玩具愛好家らの協力で再び製作が始まります。
同時期に、戦前から神戸人形を取り扱っていた元町の玩具店「キヨシマ屋」や、三宮センター街の民芸店「神戸センター」も独自の神戸人形の販売を開始。神戸人形は神戸の街に蘇りました。
1981年に開催された神戸ポートアイランド博覧会(ポートピア’81)の会場でも神戸人形は販売され、人気を博したようです。1990年頃までは製作が続けられました。
しかし阪神淡路大震災により製造業者や販売店は減少。2008年までは細々と販売されていたそうですが、当時の作り手たちが亡くなったこともあり、神戸人形はまたしても製作が途絶えることになります。
2003年、姫路市にある「日本玩具博物館」が、地元の職人の協力を得てオリジナルの神戸人形を企画・復刻。しかしその製作も長くは続きませんでした。
その後2015年に、神戸で人形劇の美術・製作をしている「ウズモリ屋」の吉田太郎氏が製作に乗り出し、現在に至るまで神戸人形の普及に努めています。
明治の半ば頃から始まり、100年以上の歴史を持つ神戸人形ですが、実は作り方についてはほとんど記録が残っていないそう。
同じ時代を生きた作家たちの交流によって技術が引き継がれ、ときには他作家を模倣するようなかたちで、人形作りが伝承されてきたと考えられてます。
神戸人形は歴史のなかで何度も廃絶しそうになりながらも、また別の誰かが作り始めることによって復活を遂げてきたんですね。
「ウズモリ屋」の吉田太郎(53)氏は、現役で活躍する唯一の神戸人形作家です。
「ウズモリ屋」の工房は東灘区・住吉山手にあり、普段は「工房太郎」という名前で人形劇の美術・製作をしています。
神戸人形製作中の吉田太郎氏 「ウズモリ屋」にて2017年6月撮影(日本玩具博物館 公式サイトより)
吉田氏は、神戸元町の生まれ。小さい頃から元町の玩具店「キヨシマ屋」のショウウィンドウに飾られている神戸人形を見て育ちました。
神戸人形という名前でありながらまったく「神戸っぽさ」が感じられない姿を見て、子ども心にその違和感が面白いと思っていたそうです。
神戸人形は子どものおもちゃには高価で手の届かない存在だったため、当時は触ることも動いている姿を見ることもできませんでした。しかし、その仕掛けに対する想像も膨らみ、いつしか心の隅に神戸人形が住み着いていたと言います。
また吉田氏は「私がむしろ魅力に感じるのは、このようなヘンテコな神戸人形を当たり前のように販売していたお店のある神戸の街そのものです」とも語ってくれました。
吉田氏は大学入学を機に京都に移り、卒業後は人形劇団を経て人形美術の仕事をしていました。1997年に東灘区に移りますが、阪神淡路大震災で街の様子はすっかり変わっていたそう。
懐かしい場所やお店がなくなり、震災からの復興のなか神戸人形の存在も人々に忘れ去られてしまったようで、なんとなく帰る場所を失ったような気持ちでいた吉田氏。
それでも2008年頃までは神戸人形が細々と販売されていて、また2003年からは「日本玩具博物館」が復刻版を作り始めたということで少し安心していたのですが、その製作も止まってしまいます。
「いよいよ本当に神戸人形がなくなってしまったのか」と落ち込んでいたところ、仕事の相棒でもある奥さんが勧めてくれたこともきっかけとなり、2015年から震災で失われた神戸の風景を取り戻したいという思いで神戸人形を製作し始めました。
吉田氏いわく「妻が背中を押してくれるのを待っていたのかもしれません」とのこと。そこから現在に至るまで、神戸人形の製作と普及に取り組んでいます。
動画の4:50頃から製作の過程を見ることができます。作業を自動化せず、すべて手作りで時間をかけて作っている様子が分かります。
人形劇美術家として培った、あらゆる素材に精通し、主題に沿った魅力的な造形を生み出す技術が神戸人形作りにも活かされているそうです。
現在「ウズモリ屋」で製作している作品を購入するのは、神戸人形のことを知っている郷土玩具愛好家の人たちが多いようです。
なかには「昔、いつでも買えると思ってたら無くなってた」「若い頃に欲しかったけど当時は買えなかった」と話す人も。
昔から受け継がれてきた題材だけでなく新作にも積極的に取り組んでいて、なかでもお客さん一人ひとりの希望に合わせてプランニングしたオリジナル神戸人形は個性豊か。
退職の贈り物や喜寿、ダイヤモンド婚の記念、結婚式の引き出物など、記念品やお祝いの品としての依頼も多いそう。その一部をご紹介します。
タイトルは、楽しい朝食。神戸が好きな新郎新婦へのサプライズとして作られました。
夫婦の人形が左右に首をかしげながらコーヒーを飲み、フランスパンをがぶり。テーブルからは六甲のイノシシが見え隠れします。
こちらは、ナイスショット!グラウンドゴルフお化けという作品。
つまみを回すと白いゴルフボールが打たれると同時に、箱の前についている顔の目と舌がニューっと飛び出す仕様です。
新作にも積極的に取り組む吉田氏に神戸人形の定義について尋ねてみたところ、「考えれば考えるほど難しく、とても一言では言えません」との回答が。
そのうえで「古くからの神戸人形を知る人が“変わった形やけど、これは神戸人形やな”と言ってくれるような人形を目指すこと」に気をつけているそうです。
また単に「仕掛けで動く」ということではなく、感情移入できるような「ストーリーのある人形」になるようにも心がけているとのことでした。
「ウズモリ屋」の神戸人形は、公式ホームページの通信販売などで購入できます。
また「ショコラエコルセ」や「きんつば」で有名な元町の老舗菓子店・本高砂屋では、一部の作品を店頭販売してるそう。
なかでも「きんつば焼き」という作品は本高砂屋とのコラボで作られたもので、お菓子職人が両手に四角いきんつばを持ってクルクルと返す仕様です。
大型神戸人形「出来たてきんつば!本高砂屋お化け」も展示されていて、実際に動かせるそうなので、神戸人形を触ってみたい!我が家に迎えたい!という人はお店を覗いてみてはどうでしょうか。
神戸人形の実物は、姫路市にある「日本玩具博物館」で見ることができます。
また「ウズモリ屋」でも見学を歓迎しているとのこと。店舗ではなく工房のため不定休で、留守にしている場合もあるので、必ず事前にメールなどで連絡してください。
歴史のなかで何度か廃れそうになりながら、その度に復活してきた神戸人形。神戸の名物として、大切にしていきたいですね。
◆関連リンク
・神戸人形のウズモリ屋 – 公式サイト
・Taro Yoshida – 公式YouTubeチャンネル
・本高砂屋 – 公式サイト
・日本玩具博物館 – 公式サイト
昔は星電社(現 LABI三宮)の隣り、雑貨を扱う店の3Fで売っていました。画像のスイカのタイプです。神戸人形のコーナーがあって5、6体展示販売されていました。三味線を弾く人形、徳利を持つ人形とかありましたね。値段は最初が1500〜1800円ぐらいで、それが暫く販売が途絶えて4000円ぐらいに値上がっていたと思う。まぁ、玩具としてマイナーなので仕方がないです。