いつ旅をしても現在進行形・神戸港町の魅力  Feel KOBE

異国情緒、港町情緒、コスモポリス……。表情多彩な神戸の魅力は、なかなか一言では言い尽くせません。でも、私が一番神戸らしさを感じるのは、港界隈。江戸時代末期に開港して以来153年、昔ながらの風情を残しながらも着々と進化し続けているこの一帯は、歴史物語が面白いほどよく見える場所だなあと思っています。

そんな港町が大きく再開発されたと聞いて、ちょっとドキドキしながら、久々に神戸へ。「開発されすぎて、あの風情が失われていたら寂しいな」という思いは杞憂に終わり、ますます個性的に、そして魅力を増していました。

五感を刺激してやまない劇場型アクアリウム「AQUARIUM × ART átoa」

将来構想を2011年に掲げて以来、着々と施設がオープンしているウォーターフロント。そのなかで最も新しいものが、今秋にオープンした「神戸ポートミュージアム」。こだわりのメニューをセルフサービスで気軽に楽しめるフードホールと、ブライダルデスクが併設された複合文化施設です。その目玉的な存在が、劇場型アクアリウムの「átoa(アトア)」。

「劇場型アクアリウムって、何?」と、想像がつかないまま訪れた私を迎えてくれたのは、これまでに見たこともない斬新な空間でした。洞窟の中で虹色に光る魚群や、樹海の森で木漏れ日を浴びる小さな生きもの、海中のごとく青い光が差し込む巨大な水槽……、館内を歩くほどに、別世界へと誘われます。

館内は8つのゾーンで構成され、それぞれに異なる世界観を見せています。円柱形の水槽にチンアナゴやカリビアンシーホースなど個性的なシルエットの生き物が展示されているのは、「MARINE NOTE-生命のゆらぎ」ゾーン。水槽は360度ぐるっと好きな角度から見ることができます。

斬新で美しい展示に刺激されながらも、ふと、やすらぎを覚えたのは、空間に漂う潮の香りを感じたから。ビーチの穏やかな風を感じているような、不思議な感覚……。これは、実際の海の香りではなく、仕掛けでした。こんな五感に訴える演出も、ユニークでワクワクします。

日本の四季折々の情景を光とアートで演出した「MIYABI -和と灯の間」ゾーンは、まさに異次元空間。足元のガラス床水槽の中には錦鯉が優雅に泳ぎ、光と切り絵のショーはキラキラとしていて、バーチャルの世界へ迷い込んだ気分です。

こうして、舞台美術やデジタルアートなどを駆使した演出で、生物の多様性や神秘性を見せている「átoa(アトア)」ですが、意外とワイルドな一面もあります。「精霊の森」ゾーンでは、なんと、散歩中のアルダブラゾウガメに遭遇! のっしのっしと歩いて我が家(居住スペース)に帰っていく様子に、なんだかほっこりしてしまいました。

ひとしきり展示を楽しんで屋上に行くと、そこには愛くるしいカピバラやコツメカワウソが。最先端技術やアートをぐいぐい押し付けるのでもなく、好奇心を刺激しながらも癒してくれるこんな施設は、神戸らしいなと思います。気持ちよさそうにくつろぐカピバラを眺めながら潮風を感じるのも、なかなか楽しい時間でした。

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átoa

 

 

ほっこり幸せな気分になれる甘い香りのミュージアム

「神戸ポートミュージアム」に隣設するのは「フェリシモ チョコレート ミュージアム」。チョコレートパッケージのコレクションや企画展を通して、チョコレートにまつわる文化を発信しています。

館内に入ると、甘~い香り。香りを放っているのは、カカオハスク(チョコレートの原材料であるカカオ豆から取り除かれた種皮)を敷きつめたインスタレーションでした。中南米のカカオ畑を思わせる香りと、現代アートとの組み合わせがとてもユニーク。

常設展に並ぶのは、「パティシエ エス コヤマ(兵庫県三田市)」のパティシエ・ショコラティエである小山進さんが手がけたチョコレートパッケージの数々。どれも主役のチョコレートに負けない存在感があって、ひとつひとつ、じっくりと見入ってしまいました。口にしなければ分からないはずの「味」が、目で見て伝わってくる面白さ! チョコレートのパッケージって、どうしてこんなにワクワクするんでしょう。

もうひとつの常設展示は、世界中のチョコレートパッケージを集めたコレクション。巨大な収蔵棚にはさまざまなパッケージがずらりと並んでいて、圧倒されます。目下、「世界で最も多くのチョコレートパッケージをコレクションするミュージアム」をめざして、まだまだ収集中、寄贈も受け付けているとのこと。

ここは、多くの人を甘い気持ちで包んだチョコレートのパッケージが一堂に集まる場所。昔からさまざまな西洋文化を受け入れ、早くから洋菓子が発展した神戸らしい、カルチャースポットを満喫しました。

 

 

賑わうウォーターフロントの原点は、「はしけ」

開発が進む神戸の港町ですが、歴史をさかのぼれば、旧居留地のあたりにはかつて、静かな浜が広がっていたといいます。1868年(慶応3年)の開港以来、外国人貿易商によって欧米文化が持ち込まれ、人々はそれを受け入れて熟成させ、神戸ならではの風土を築いてきました。

「この一帯は、時代に合わせて柔軟に開発の計画を変え、発展してきたんですよ」と、教えてくれたのは、みなとまちづくりマイスターの森田潔さん。神戸港界隈のことならなんでも知っている、生き字引ともいえる方です。

森田さんが見せてくれた昭和時代の地図を見ると、埠頭は今とは想像もつかない形。山を削り、それをベルトコンベヤーと船で運んで海を埋め立て、着々と開発を進めてきたのだといいます。

今でこそモダンな都市の風情を見せる港町も、30~40年ほど前までは、艀(はしけ)が停泊する風景がありました。艀というのは、河川や水深の浅い海で貨物を運ぶために作られた船のこと。終戦後の高度経済成長期は神戸港に入港する船が激増したため、大型の外航貨物船は接岸することができませんでした。そこで、沖合で荷物を艀に積み替えて岸まで運搬していたのです。

港湾施設が整備され大型のコンテナ船が接岸できるようになると艀はその役目を終え激減しましたが、1965年には600世帯2000人が艀で生活し、1969年にはなんと2130隻もの艀があったといいます。

「私が子供の頃は、サラリーマンが艀から出勤するのをよく見かけましたよ」と森田さん。船の中で暮らす市民だなんて、なんだか昔の香港映画みたい。

変遷を遂げる港町を海から眺めたくなって、森田さんと一緒に「boh boh KOBE」号に乗船してみました。神戸リゾートクルーズをコンセプトにした、約1時間の気軽な船旅です。

船上から眺めたのは、六甲山麓をバックにキラキラと輝く高層ビルや世界初となる液化水素の運搬船、潜水艦を造る造船所など。ちなみに、防衛上の機密により、潜水艦を造る造船所(2社)はここ神戸港にしかありません。「神戸港は美しいというだけでなく、世界最先端をいく港なんです」。そんな森田さんの言葉も頷けます。

開港から今にいたるまで、歴史のレイヤーを重ねながら成熟した神戸の港町。時代に寄り添いその表情を変えつつも、潮風を感じる心地よさは、今も変わらず。これからもこうして、知的好奇心を満たし、居心地いい場所であり続けるんだろうな。早くも、次の神戸旅が楽しみになりました。

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boh boh KOBE号

【文】芹澤和美
編集職を経て、1996年、中国・上海大学文学院へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。2007年、ビジネスクラスで行く世界一周をテーマにしたムック本「おとなの世界一周(朝日新聞社)」巻頭の紀行を取材執筆したことで、旅の素晴らしさを再認識する。 主なフィールドは、1998年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。テーマは、ローカルの暮らしや風土、歴史が育んだその土地ならではのカルチャーなど、たんに流行の紹介や情報の紹介だけに終わらないルポルタージュ。 主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。ここ数年のライフワークは、マカオと、4世紀前のマカオとの歴史的繋がりから興味を持つようになった九州・天草。現在、継続的に、マカオからのレポートをラジオやテレビなどのメディア、講演会などで発信中。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
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