古くから外国の文化を大いに取り入れ、親しんできた神戸。フランスパンにチョコレート、鉄板ステーキ‥…と、神戸から日本全国に広がっていった外国文化はたくさんありますが、ジャズもそのひとつ。
アメリカ・ニューオリンズで1800年代に生まれたジャズが神戸にやってきたのは大正時代のこと。一説には、貿易港として賑わう神戸を訪れたアメリカ船の音楽隊により、もたらされたと言われています。
そして1923年、日本初のプロのジャズバンド「井田一郎とラフィング・スターズ」が誕生し、 神戸で初めて演奏。その後、神戸のジャズ文化はアマチュアを中心におおいに発展。今も街中には、気軽にジャズを楽しめるスポットが点在しています。
三宮の繁華街、サブカルチャー系のショップが並ぶセンタープラザ西館で異彩を放つのが、「茶房 Voice」。扉を開けると、コーヒーの香りと柔らかな空気に迎えられます。
雰囲気を醸し出しているのは、大きな窓から差し込む光と、真空管アンプを通したレコードの音色。なんと、その数は約7千枚!その中からさまざまな曲が日々のBGMに選ばれています。
ともすると、カウンターはジャズ好きの渋いオジサマたちの特等席?と思いきや、見かけたのは、若い人たち。ジャズを知らない20~30代もよく訪れるのだそうです。
「むしろ、お客様とはジャズ以外の話で盛り上がることも多いですよ。たとえば、株の話とか」と、笑顔で答えてくれたのは、マスターの村田太さん。ジャズを押しつけない気さくな人柄に、なんだかほっとします。
村田さんには、もうひとつの顔が。海外アーティストの招聘、ライブ会場のブッキング、フライヤー制作からチケット販売、レコーディングまでこなす、プロデューサーでもあるのです。
「ジャズの産地直送みたいなもんです(笑)」と村田さん。その背景には、ジャズへの情熱や知識の深さもあるのだろうけれど、適正価格で海外アーティストのライブを楽しんでもらいたい、という思いもうかがえます。
カウンターでコーヒーを飲んでいた紳士は、このお店の初代マスターで、太さんのお父さん。もともとは普通の喫茶店としてオープンした後、趣味で集めたレコードが増え続け、いつのまにかジャズフリークに愛されるお店になったのだとか。
そんなお話をしながら、カウンターでコーヒーを1杯、2杯。深めのローストと心地よいBGMが、じんわりと体を温めてくれます。こんなふうに、カウンターに座ってコーヒーを飲むなんて、何年ぶりだろう? ジャズの知識ゼロの私ですが、心地よい音楽に身をゆだね、贅沢なコーヒーブレイクを過ごすことができました。
茶房Voice
住所:神戸市中央区三宮町2-11三宮センタープラザ西館2階
電話:078-334-3668
営業時間:11:00~19:00
定休日:水曜
三宮駅の北側に伸びる北野坂は、飲食店が並ぶ賑やかな通り。その一角に、ジャズバー「さりげなく」はあります。
北野坂に移転する以前の旧店舗には、ジャズ好きとしても知られる作家・村上春樹氏も足しげく通ったという、知る人ぞ知る名店です。それだけに、扉を開けるのはちょっと勇気がいりますが、入ってみれば、そこはとても温かな空間。スピーカーから流れる音色に優しく包まれます。
店の奥には、数々のレコードが並んでいて、なかにはそうとう聴きこんでいるんだろうなと想像させる、年季の入ったものも。店内に流れているのは主に、ジャズの黄金期と言われる50~60年代の名曲です。
目を引いたのは、カウンターの奥を飾る、店内を描いた絵。絵の中でグラスを磨くマスター・冨山公雄さんの温厚な雰囲気がとてもご本人に似ていて、思わずほっこり。常連のお客さんが描いてプレゼントしてくださったものだそうです。
その絵の向こうに見える北野坂の別名は、「ジャズストリート」。ジャズを聴かせるライブハウスやバーなどが点在していることから、いつしかそう呼ばれるようになったのだそう。毎年開かれているパレード、「神戸ジャズストリート」(残念ながら、2021年は新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から中止)のスタート地点でもあります。
店名は、名曲のイメージに因んだもの。その名のとおり、淡々といい音楽を聞かせ、お酒を楽しませてくれます。
お店は老舗だけあり、親子2代で通う常連さんもいる一方で、一人でぶらりと訪ねる旅行者らしきお客さんも多いのだそう。たしかに、旅先では、ひとり静かにお酒を飲みたくなることもあります。
「ジャズだからって気負わなくていいよ」と言われているような雰囲気が、いっそうお酒をおいしくさせるお店でした。
Jazz&Booze さりげなく
住所:神戸市中央区中山手通1-8-19三浦ビル2F
電話:078-331-9762
営業時間:18:00~深夜
定休日:12月31日~1月1日
ときは戦後復興期の1953年。まだまだジャズが普及していなかった時代、しかもコーヒーなど庶民には手が届かない高級嗜好品だった頃にオープンしたのが、「茶房 JAVA(ジャヴァ)」。三ノ宮駅近くの高架下にある老舗中の老舗は今も、「隠れた名所」として多くのファンに愛されています。
店内に入ってまず目を引かれるのは、「アンペックス」のオープンリールや「マランツ」のアンプなど、1950年代初頭のオーディオ機器です。
これらは初代オーナーがアメリカから航路はるばる持ち帰ったもの。お店がオープンした当時、「アンペックス」のオープンリールはNHKとこのお店にしかないと言われた、最先端かつ高級(家が一軒建つほどの!)の音響機器だったのだそう。
昭和レトロと南国モードが同居する店内は、異国情緒もあり、タイムトリップ気分にもなり。やや抑えめの照明が、落ち着いた雰囲気を醸し出しています。
壁にはレコードジャケットやこのお店がロケ地となった1950年代の映画ポスターが。なかでも、いっそう華やかな歴史を香らせているのが、「テネシーワルツ」のヒットで知られる昭和の大スター、江利チエミの直筆サインです。
かつて、ジャズ評論家としても活躍していたタレントの故・大橋巨泉が音楽を流しながらレコード解説をしていたという逸話も。当時を知らないからこそ、世の中がキラキラと輝いてパワフルだった時代を想像すると、ワクワクしてしまいます。
そんなお店でケーキとコーヒーをいただきながら、久々に再会した神戸在住の友人とおしゃべり。音楽を楽しみつつ静かに会話ができるのも、このお店の魅力です。
ジャズの音色とコーヒーの香り。時おり頭上に聞こえる電車の音さえもBGMに感じてしまう不思議。このお店ならではの心地よさに、すっかり浸ってしまいました。
茶房 JAVA (ジャヴァ)
住所 兵庫県神戸市中央区北長狭通1-31-13
電話:078-331-1019
営業時間:12:00~21:00
定休日:木曜不定休(祝日は営業)
神戸のジャズ文化は、想像以上に柔軟でフレンドリー。知識がなくても存分に楽しめるから、とても身近に感じます。「ジャズの音色を浴びに、神戸へ」。そんな旅も素敵です。
【文】芹澤和美
編集職を経て、1996年、中国・上海大学文学院へ短期留学。帰国後、フリーランスの旅行ライターとして活動。2007年、ビジネスクラスで行く世界一周をテーマにしたムック本「おとなの世界一周(朝日新聞社)」巻頭の紀行を取材執筆したことで、旅の素晴らしさを再認識する。 主なフィールドは、1998年から通い続けているマカオや、中国語圏、アジア、中米、南アフリカ。テーマは、ローカルの暮らしや風土、歴史が育んだその土地ならではのカルチャーなど、たんに流行の紹介や情報の紹介だけに終わらないルポルタージュ。 主に、旅行雑誌やカード会員誌、機内誌、新聞などで国内外の旅行記事や紀行文を掲載。ここ数年のライフワークは、マカオと、4世紀前のマカオとの歴史的繋がりから興味を持つようになった九州・天草。現在、継続的に、マカオからのレポートをラジオやテレビなどのメディア、講演会などで発信中。著書に『マカオノスタルジック紀行』(双葉社)。
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ジャズの知識はゼロですがこれから老後の趣味にしようと思ってます